マルセル
Marcel- スイス/1962/ダイアローグなし/モノクロ/デジタル・ファイル(原版:8mm)/18分
監督、原案、製作:フレディ・M・ムーラー
音楽:ドガー・ヴァレーズ
提供:リヒトシュピール/キネマテーク・ベルン
11歳の少年マルセルの一日。小型のグライダーを飛ばして広い草原を走る少年の姿が見える。鉄道のレールに沿って歩いていくと、無人地帯へと迷い込んでしまう。森、採石場、廃屋。そのうちにグライダーは無くなってしまうが、生と死が混在し、光と影の織りなす神秘的な世界のなかで少年は冒険を続ける。「伝統的なスイス映画と訣別し、異なる映画を求めていた」というムーラーが、プドフキンやエイゼンシュテインの作品に影響を受けながら、8ミリで撮影した最初の作品。
パシフィック ― あるいは満ち足りた人々
Pacific--or the ContentedPazifik--oder die Zufriedenen
- スイス/1965/ダイアローグなし/パートカラー、モノクロ/デジタル・ファイル(原版:16mm)/60分
監督、原案、撮影、編集、製作:フレディ・M・ムーラー
出演:ジュルヴァン・グンテルン、ジャン=マルク・ザイラー、エリッヒ・フライ、マリオ・ベレッタ、アウグスティン・エルプ、 ダニエル・バーメルト、フレディ・M・ムーラー
提供:リヒトシュピール/キネマテーク・ベルン
20歳くらいの若者7人が、「パシフィック」という名の古い邸宅で共同生活を営んでいる。この家は間もなく取り壊されてしまう。彼らにとって今日は最後の宴であり、戸外では馬鹿騒ぎが繰り広げられる。仲間内で撮られたプライベート・フィルムにも似た映像空間。そこへ7つのエピソードが挿入される。それは、各々のポートレイトであり、自身の未来についての詩的な予言ともいえよう。ムーラーが実験映画作家として認められていくきっかけとなった作品で、カリグラフ手法によるアニメーション、コマ落し、手による着色、スクラッチなど、様々な手法が試みられている。オリジナル版は約4時間の作品で、生演奏のサウンドトラック付きで上映されていたが、一般公開されるにあたり1時間に編集された。
バランス
Balance- スイス/1965/ダイアローグなし/モノクロ/デジタル・ファイル(原版:16mm)/12分
監督、原案、撮影、編集、製作:フレディ・M・ムーラー
出演:アウグスティン・エルプ
提供:リヒトシュピール/キネマテーク・ベルン
『パシフィック ― あるいは満ち足りた人々』のオリジナル版に使われたエピソードのひとつ。主人公を演じるアウグスティン・エルプが少年時代に抱いていた、綱渡り師になりたいという夢がもととなって制作された。ひとりの男が森へやってくる。男は鞄から綱を取り出し、木の幹に結わえ、自身の顔に化粧をしたあとで綱渡りを始める。女がピストルで男を撃つ。彼が落下すると、黒い服を着た二人の男が死体を運ぶ。葬列に戦争の場面が挿入される。空襲を知らせるサイレン、爆弾の音。映画冒頭で夜空に打ち上げられる花火のイメージ同様に、夢を現実の断片が切り裂く。
ジュルヴァン
Sylvan- スイス/1965/ダイアローグなし/モノクロ、カラー/デジタル・ファイル(原版:16mm)/12分
監督、原案、撮影、編集、製作:フレディ・M・ムーラー
出演:ジュルヴァン・グンテルン
提供:リヒトシュピール/キネマテーク・ベルン
『バランス』と同様、『パシフィック ― あるいは満ち足りた人々』のオリジナル版を構成していたエピソードであり、もとの作品が再編集された時点で、独立したひとつの作品となった。4人の登場人物をすべて、ジュルヴァン・グンテルンひとりが演じているが、巧みな撮影と編集によって、人物の複数化と遍在化に成功している。あるアパルトマンの地下室で、死の床に横たわる男を囲み、3人の息子がいる。彼らは父の残した遺産を狙っており、それを独り占めにしようとして、互いに奪い合い、殺し合い、3人とも死んでしまう。その後、死んだはずの父が生き返り、遺産は彼のところへ戻る。ムーラーの初期作品のなかでは、劇映画の要素が最も強いといえよう。