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パッサーゲン

Passages
Passagen

スイス、ドイツ/1972/ドイツ語/カラー/16mm/50分

監督、原案:フレディ・M・ムーラー
編集:イヴ・イェルサン、フレディ・M・ムーラー
録音:ベニー・レーマン
出演:ハンス・ルドルフ・ギーガー、コンラート・ファルナー、フリッツ・ビレター
調査:ハンス=ウルリッヒ・ヨルディ
製作:ネモ・フィルム、西部ドイツ放送(ケルン)
提供:アテネ・フランセ文化センター
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フレディ・M・ムーラーとH・R・ギーガー

『エイリアン』のデザイナーとして、日本でも人気の高い画家、ハンス・ルドルフ・ギーガー(1940−2014)の制作を記録しつつ、作品世界の誕生を探求するドキュメンタリー。当時、詩人ウルバン・グヴェルダー、作曲家ジェリー・パストリーニといった若い芸術家の集うグループに、ギーガーやムーラーも参加していた。ギーガーは、『スイスメイド ― 2069篇』の衣裳デザインにも協力をしている。本作はギーガーの絵画と、意識や無意識、記憶や未来への予感とをつなぐ「通行路」であるともいえよう。核実験、人工衛星、ヴェトナム戦争、五月革命といった現代社会の政治的事件が、外部から画家に与える影響。それと同時に、家の地下室、城の土牢や拷問部屋、血を流すキリスト像など、幼少期に画家の内面に刻まれ蓄積されていったイメージ。「外」と「内」は、迷路のように結びつきながら、ギーガーの幻想的なリアリズムを生み出す。



-クリストファーとアレクサンダー

Christopher & Alexander

スイス/1973/フランス語/カラー/デジタル・ファイル(原版:16mm)/46分

監督、原案、編集:フレディ・M・ムーラー
撮影:フレディ・M・ムーラー、イワン・シューマッハー
録音:ベニー・レーマン
音楽:ヨナス・C・ヘーフェリ
製作:ネモ・フィルム、アルコ=フィルム、エリック・フランク
提供:リヒトシュピール/キネマテーク・ベルン

銀行家エリック・フランクの注文を受けて制作された作品で、彼の二人の息子、クリストファーとアレクサンダーという5歳と3歳の兄弟の生活が撮影されている。子どもたちの普段の一日。日常の描写に加えて、その年の記念となる出来事(誕生日、クリスマス、動物園やサーカスに行った日など)が挿入されている。ブルジョワ家庭の幼い兄弟が成人した際、自分たちがどのような環境で育ったのかを知ることができるよう、ムーラーは制作の依頼を引き受けたという。『われら山人たち』と平行して本作品は撮影されたが、ムーラー自身がしばしば指摘するように、ウーリ州の「高地に住む人々」とチューリッヒの「高台に住む人々」がそれぞれ描かれているという意味で、二つの作品は「民俗学的」な映画に属しているともいえよう。



われら山人たち ―われわれ山国の人間が山間に住むのは、われわれのせいではない―

We Mountain People in the Mountains
Wir Bergler in den Bergen sind eigentlich nicht schuld, dass wir da sind

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スイス/1974/スイス・ドイツ語/カラー/16mm/108分

監督:フレディ・M・ムーラー
原案:フレディ・M・ムーラー、ジャン=ピエール・オビー、ゲオルク・コーラー
撮影:イワン・シューマッハー
編集:フレディ・M・ムーラー、エヴェリーネ・ブロムバッハー
録音:リュック・イェルサン
記録、照明:ベニー・レーマン
助成:スイス放送協会、スイス内務省、ミグロ、ウーリ州
製作会社:ネモ・フィルム
提供:スイス・フィルムズ

ムーラーが、自らの故郷ウーリ州の山岳地帯で撮った長編ドキュメンタリー作品。映画は地域によって3つのパートに分かれている。ゲシェネンの渓谷が描かれる第一部では、トンネル建設によって自然環境のバランスが崩れ、牧畜経営がやがて破綻することが示される。第二部の舞台となるシェーヒェンの渓谷では、伝統的な高原の牧畜経営が維持されている。ここでは、直接民主制によって多くの政治的選択が行われている。第三部、マデラーナー渓谷のブリステンでは、牧畜経営だけでは共同体の運営が難しいため、住民の半数は車でよそへ働きに出ている。対象となる地域だけでなく、民俗学的なテーマや、共同体の閉鎖性など『山の焚火』に直接的につながる多くの要素がこの映画のなかに認められる。村人たちの語りが画面の「オフ」で聞こえるがゆえに、彼らの眼差しは無言で見つめるかのように観客へ投げかけられる。


 


出会いの場――山形を通して発見する二人の映画作家

 フレディ・M・ムーラーの作品との出会いは1970年代、短編映画『ベルンハルト・ルジンブール』を観たときに遡ります。魔術的な魅力を持つ作品でした。ナレーションはなく、スイス人彫刻家と彼のパートナー、そして全編出ずっぱりのペットのブルテリアが織りなす日常生活の様子が延々と続く映像です。言葉を介さずとも、この映画の真髄は伝わってきました。

 1986年、アテネ・フランセ文化センター主催のフレディ・M・ムーラー特集で、うれしいことにご本人にお目にかかることができました。当時、わたしは映画監督の小川紳介さんと親しくしており、また『われら山人たち ―われわれ山国の人間が山間に住むのは、われわれのせいではない―』を観ていたため、このふたりの映画人を引き合わせてはどうかと思いつきました。気質がそっくりで、映画のヴィジョンもとても近いのではないかと感じたからです。そしてふたりの出会いは実現しました。のちにムーラーがわたしに打ち明けてくれたところによると、会ってすぐに小川さんに惹かれるものを感じたそうです。意気投合したふたりの友情は小川さんが他界されるまで続きました。

 今回は日本で2回目のフレディ・M・ムーラー特集となりますが、小川紳介監督をその創設者のひとりとする山形国際ドキュメンタリー映画祭以上に理想的な場は、望めないと考えています。

ジャン=フランソワ・ゲリー
(元在東京およびニューヨークスイス大使館文化担当官)