受賞作品 審査員コメント
インターナショナル・コンペティション 賞について
- 審査員:足立正生、ラヴ・ディアス、ジャン=ピエール・リモザン、アミール・ムハマド、ドロテー・ヴェナー
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●ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)
『我々のものではない世界』 -
パレスティナ、アラブ首長国連邦、イギリス/2012/アラビア語、英語/カラー、モノクロ/93分
監督:マハディ・フレフェル
私たちは現実の世界を、記録や記憶、ましてや追憶という便利なシステムを都合よく使いながら生きている。いや、そうやって嘘の記憶で塗り固めながら生き延びているとさえ言える。
この作品は、記録することによって、自らの命と人生を、愛や友情や家族を、そして生きる望みを懸命にたぐり寄せようとした物語であり、ドキュメントである。それは同時に、占領と虐殺、抑圧と貧困という歴史の中で忘れられようとする人間の悲劇について、圧倒的な不正義としてのイスラエルの占領下に置かれ、難民となって生きることを強いられたパレスティナの人々の悲惨と苦悩を通じて、さらに深く、広く、忘却という私たちの記憶システムを告発するものである。
●山形市長賞(最優秀賞)
『殺人という行為』- デンマーク、インドネシア、ノルウェー、イギリス/2012/インドネシア語 /カラー/159分
監督:ジョシュア・オッペンハイマー
ある国家の歴史の闇の奥を、大胆に、挑発的に探究する想像力豊かなこの映画の演出は、必要なカタルシス効果を追い求める熱意に裏づけられている。
●優秀賞
『リヴィジョン/検証』- ドイツ/2012/ドイツ語、ルーマニア語/カラー/106分
監督:フィリップ・シェフナー
この作品は、過去に起きた、ある刑事事件の検証を通して、現在へとつながる途方もない重要性を投げかける。同時に、私たち観客を証人として立ち合わせることで、ドキュメンタリー映画製作における「真実」の意味を検証する。
●優秀賞
『サンティアゴの扉』- チリ/2012/スペイン語/カラー/122分
監督:イグナシオ・アグエロ
この作品のストーリーを生み出した明快で輝かしいアイディア、それはいまだ誰も発想し得なかったような、シンプルにして類まれな性質のものである。卓越した手法で撮影された無条件の慈しみ、それはあらゆる人間に差し出されるべきものである。
●特別賞
『蜘蛛の地』- 韓国/2013/韓国語/カラー/150分
監督:キム・ドンリョン、パク・ギョンテ
この作品に流れる厳格な映像は、ある種の異様さとともに、メランコリーと詩情にあふれた不思議さに満ち溢れている。同時に、簡潔で力強い政治的観点が、映画を真に意味深いものにしている。
アジア千波万波 賞について
- 審査員:フィリップ・チア、崟利子
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●小川紳介賞
『ブアさんのござ』 - ヴェトナム/2011/ヴェトナム語/カラー/35分
監督:ズーン・モン・トゥー
シンプルかつ心を打つ瞬間の積み重ねによって、痛みと歴史の記憶を表現した潔いまでの簡潔さを評価して。
●奨励賞
『怒れる沿線:三谷(さんや)』- 香港/2011/広東語/カラー/310分
監督:陳彦楷(チャン・インカイ)、菜園村の人々
市民の人権と進歩は両立しないと主張する強硬な国家権力を前にした人々の土地への愛と、家を失う激しい恐怖を映し出したことを評価して。
●奨励賞
『モーターラマ』- アフガニスタン/2012/ダリー語/モノクロ/60分
監督:マレク・シャフィイ、ディアナ・サケブアフガニスタンの女性の権利を抑圧する家父長制と、宗教に基づく保守主義への果敢な視線を評価して。
●特別賞
『戦争に抱(いだ)かれて』- フィリピン/2013/フィリピン語、英語/カラー/51分
監督:アッジャーニ・アルンパック
ある家族と国家の中のイスラム教とキリスト教を、興味深い形で並立させ、家族内では平和が存在し得ても、国家レベルでは存在しないのはなぜかという問題提起を評価して。
市民賞 賞について
- 『パンク・シンドローム』
- フィンランド、ノルウェー、スウェーデン/2012/フィンランド語/カラー/85分
監督:ユッカ・カルッカイネン、J-P・パッシ
『標的の村』- 日本/2013/日本語、英語/カラー、モノクロ/91分
監督:三上智恵
コミュニティシネマ賞 賞について
- 『何があったのか、知りたい(知ってほしい)』
- カンボジア/2011/クメール語、英語/カラー/54分
監督:エラ・プリーセ、ヌ・ヴァ、トゥノル・ロ村の人々
私たちは、今年、山形で、記憶、歴史への旅を、作品の中にみる、そんな体験を何度もしました。この作品もそんな旅を描いています。
私たちは、この映画の中に、自分自身の体験、記憶をもう一度語る、あるいは演じることで救われる人々の姿をみました。映画には、人々を忘れられることから救い、記憶を、歴史を、生きたかたちで、次の世代へつなぎ、分かち合うことを可能にする力がある、と感じることができました。
語ること、耳を傾けることによって生まれる表情の輝き。映画の輝きそのものといえるそんな表情を私たちに見せてくれた、エラ・プリーセとヌ・ヴァ、そしてトゥノル・ロ村の人々による『何があったのか、知りたい(知ってほしい)』に、今年のコミュニティシネマ賞を授賞します。
日本映画監督協会賞 賞について
- 審査員:原一男(委員長)、すずきじゅんいち、山本起也、関口祐加、入江悠
- 『標的の村』
- 日本/2013/日本語、英語/カラー、モノクロ/91分
監督:三上智恵
今、ニッポン国で、最もアクチュアルで、ダイナミックな激動の地は、沖縄であることを実感する。『標的の村』は、ナレーションや音楽の使い方、人物の描き方等において、いかにもテレビ的である“欠点”を持っているが、それをさしひいても、アメリカ国とニッポン国という強大な権力に押しつぶされていく沖縄の人たちの悲痛な叫びと闘いを、作り手が大いなる共感をもって、熱く描ききったヴィヴィッドな力作である。最近、テレビ局の作り手たちの、電波に乗せるための作品ではなく、映画館で上映するための作品が現れ始めている。これも、その1本。テレビ局という“権力”の上に胡座をかいているような人たちと作品を知っているが、今作は、テレビ局という特権的組織があったればこそのチームワークと、矛盾するようだが局内インデペンデント的作家として作り上げた心意気とを評価したい。[原一男]
●Special Mention
『愛しきトンド』- フィリピン/2012/フィリピン語/カラー/76分
監督:ジュエル・マラナン
フィリピンのトンド地区の貧しい一家を描きながら、決して貧しさを売り物としていない。品のいいカメラワークや出過ぎない監督の主張など、見ていて貧民の家であっても気持ちいい品格を感じる。ある一家の人生の1ページを淡々と描いている。そこが素晴らしくもあるが、何を主張したいのかをもっと訴えて欲しかったという気持ちもある。これらが欠点でもあり、長所でもあった。[すずきじゅんいち]
スカパー! IDEHA賞 賞について
- 審査員:パオロ・ベルトリン、梁英姫(ヤン・ヨンヒ)
- 『オトヲカル』
- 日本/2013/日本語/カラー/8mm/36分
監督:村上賢司
本作は楽しさや遊び心に満ちており、フィルムや映画について再発見させてくれる作品である。この爽快な映像記録では、現実を記録し、表現する新しい方法を発見した映画史のパイオニアたちの興奮と不安を、作者が追体験している。過去から現在のものまで、映画のデジタル化が進む昨今において、「映画に賞味期限があるのか?」という、実践的かつ形而上学的な質問を問いかける、真に斬新な作品である。[パオロ・ベルトリン]
『うたうひと』- 日本/2013/日本語/カラー/120分
監督:酒井耕、濱口竜介
『うたうひと』は、体の隅々にまで染みわたるような暖かい方言で語られる昔話に包まれており、豊かな東北、傷ついた東北、時代の喪失と希望、そして自分自身の家族にまで思いを馳せながら映画を観ていました。いつまでも忘れられないであろう、心の旅にいざなってくれたこの作品に感謝します。[梁英姫(ヤン・ヨンヒ)]