Part 3
沖縄戦を彫る/記憶のクロニクル
「鉄の暴風」と形容された沖縄戦は、多くの住民を巻き込み、死に至らしめた。沖縄の住民たちがそのような立場に追い込まれたのには、日本の歴史的な背景がある。当時の日本の政治・軍事システムは最終的な判断として沖縄での戦いを据えたのである。同時にアメリカもまた日本侵攻の端緒として沖縄を選んだのである。沖縄戦は日米双方の軍隊と軍隊の戦闘という以上に、近代日本の構造的歪みや、沖縄と日本の複雑な絡み合いを垣間見せた。沖縄戦から見えてくる軍隊と教育、加害と被害の重層構造、記憶と証言のあり方、そして人間の内部に住む闇。その闇に迫り「戦争の世紀」を沖縄戦から探照する。
1 | 果てしなき問い |
ひめゆりの塔
Monument of Star Lilies- 1953/モノクロ/16mm(原版:35mm)/131分/英語字幕版
監督:今井正 脚本:水木洋子 撮影:中尾駿一郎 編集:河野秋和
録音:岡崎三千雄 音楽:小関裕而 企画:伊藤武郎
美術:久保一雄 製作:マキノ光雄、大川博
出演:津島恵子、岡田英次、信欣三、河野秋武、香川京子
製作会社:東映 提供:国際交流基金
沖縄戦で当時まだ学生だった少女たちが看護要員として戦場動員された「ひめゆり学徒隊」の様子を映画化した作品。少女たちの過酷な戦争体験を描き、本土、沖縄の上映時にはともに大ヒットを記録した。監督は、戦後日本映画を代表する人間ドラマを多く手がけた今井正。製作時はまだ沖縄が日本に復帰する前だったため現地沖縄での撮影が行えず、本土で撮影された。監督の今井は1982年に、全編沖縄ロケで同作品を再度映画化している。
激動の昭和史 沖縄決戦
Turbulent Showa History: Battle of Okinawa- 1971/カラー/35mm/149分
監督:岡本喜八 脚本:新藤兼人 撮影:村井博 編集:黒岩義民
録音:渡会伸 音楽:佐藤勝 美術:村木与四郎 製作:藤本真澄、針生宏
出演:小林桂樹、丹波哲郎、仲代達矢、森幹太、川津祐介、橋本功
製作会社、提供:東宝
太平洋戦争時、日本防衛の砦となった沖縄での地上戦の開始から終結までを描いた作品。東宝が岡本喜八監督で1967年に製作しヒットした『日本のいちばん長い日』の成功によってシリーズ化されることになった「激動の昭和史」の第4作目。日本軍人の戦場での葛藤を軸としながら、一般人の集団自決の様子や、些細なことから“スパイ”と見なされ日本軍に殺害される住民の姿など、さまざまな角度から沖縄戦を描いている。
ひめゆり戦史 いま問う、国家と教育
Star Lily War History: Questioning Education and the State Today-
1979/カラー/ビデオ/48分
ディレクター:森口豁 撮影:真野恒一 編集:細野健治
録音:菊田吉宏、植松厳 ナレーター:新田昌玄、此島愛子
プロデューサー:氏田宏 制作会社、提供:日本テレビ
放映日:1979年5月13日
1960年代から80年代にかけて、日本テレビの記者、カメラマン、ディレクターとして“沖縄”をテーマとしたドキュメンタリー番組を数多く手がけた森口豁が制作したテレビ・ドキュメンタリー。
沖縄戦時に看護要員として戦場動員された、旧沖縄師範女子部と県立第一高女学校の「ひめゆり学徒隊」の生徒たちや関係者の証言をもとにしながら、10代半ばの少女たちが、なぜ戦争に駆り立てられていったのかを明らかにしようとする。
空白の戦史 沖縄住民虐殺35年
A Gap in History: Thirty-five Years Since the Massacre of Okinawans-
1980/カラー/ビデオ/25分
ディレクター:森口豁 撮影:木村明 編集:長尾昌、黒田道則
ナレーター:伊藤惣一、此島愛子 写真提供:大田昌秀
プロデューサー:森康雄 制作会社、提供:日本テレビ
放映日:1980年11月2日
沖縄戦の最中、沖縄本島北部で起こった日本軍による地元住民の虐殺のあり方に迫る。元日本軍の通信兵として沖縄戦で戦った森杉多が、沖縄に単身赴き、被害者の遺族に会って「日本軍の犯罪」を詫びる内容。ディレクターの森口は本作の制作を振り返る中で、虐殺に立ち会った元日本兵のひとり(森)が東京で生存している事実を探し当て「何としてもこの人と会い、真相に迫らなければならない」と決意。カメラの前で取材に応じる森の口からは、戦時中の凄惨な経験が明らかになる。
遅すぎた聖断 ― 検証・沖縄戦への道
An Overdue Decision- 1988/カラー、モノクロ/ビデオ/45分
取材:仲里雅之 撮影:大盛伸二 ナレーター:新屋敷二幸
美術:高島彦志 制作会社、提供:琉球放送
沖縄戦は、一体何のための戦いだったのか。そして、天皇が早期聖断することで、あれ程までの悲劇を未然に防ぐことはできなかったのか。海邦国体翌年、元号は昭和から平成へ変わろうとしていた1988年に、琉球放送が制作した作品。歴史学者によって設立された「沖縄戦を考える会(東京)」のメンバーの証言、第32軍高級参謀故八原博通大佐の証言、戦時中の天皇と側近たちの会談を文献などから構成し、沖縄戦の悲劇はなぜ生まれたのか、そしてなぜ長期化したのかを検証する。
2 | 声と語りの衝撃 今、生きる言葉と記憶 |
島クトゥバで語る戦世〈全6部〉
War Stories Told in Shima kutuba <Six Parts>- 2003/島クトゥバ/カラー/ビデオ/360分/日本語字幕版
撮影:比嘉豊光、村山友江 編集:村山友江
製作、提供:琉球弧を記録する会
沖縄戦体験を島クトゥバ(琉球弧の島々の言葉)で記録した証言集。これまで15分の試作品としては上映されたが、100人の証言をまとめ一挙上映するのは初めて。沖縄の言語は皇民化・同化過程で禁じられ、沖縄戦では「沖縄語を使った者はスパイ」とみなされた。島クトゥバで語ることは、否応なく沖縄戦にいたる近代の歪みと沖縄戦の特異点を二重に引き受けてしまう。100の証言は戦世の傷と闇の繊細な細部をみせつつ、“あの時”と“あの場所”を未知の領域として提示する。