Part 8
地のウタ、天界のファンタジー
日本と台湾の間に花綵のように点在する弧状の列島。島々の時間と空間は独特な言葉と歌謡とファンタジーを生み、育ててきた。始原の神々と交歓する女たちに担われた祭祀があり、汎アジア的な音階と蛇皮線が紡ぐ唄がある。そして亜熱帯の想像力は、地上と天界を自在に往還する未知の星人を創造した。神々が遊行し、ウタが溢れ、ファンタジーが繁茂する。それは、民俗でもなく、民族でもなく、沖縄という場から培われた文化の力である。
1 | 音とファンタジーの響宴 |
月城物語
Tsukishiro Story- 1959/沖縄語/カラー/ビデオ(原版:16mm)/40分
監督:大日向伝 製作:乙姫劇団
提供:沖縄県公文書館
米軍統治下で作られたウチナーグチによる映画の存在は、これまでに著された日本映画史文献のどこにも書かれていない。本作は、女性だけからなる沖縄芝居の一座、乙姫劇団(2002年閉団)の創立10周年を記念して『山原街道』とともに2作まとめて製作されたもの。注目すべきは2作とも、先に俳優業を捨ててブラジルへ移住した松竹のスター、大日方伝が監督を務めていることである。カラー作品という点も貴重。
吉屋チルー物語
The Yoshiya Chiru Story- 1962/沖縄語/モノクロ/16mm/96分
監督、脚本、製作:金城哲夫
撮影:山崎政男
録音:伊波三郎 音楽:国吉正子
出演:清村悦子、島正太郎、瀬名波孝子、八木政男、佐川昌夫
提供:沖縄県教育委員会、金城和夫
ウルトラセブン「ノンマルトの使者」
Ultraseven: The Young Messenger-
1968/カラー/ビデオ(原版:16mm)/25分
監督:満田かずほ【禾斉】
脚本:金城哲夫
特殊技術、特撮監督:高野宏一
宇宙人、怪獣:ノンマルト、ガイロス
提供:円谷プロダクション
放映日:1968年7月21日
ウルトラマンを創り出した脚本家・金城哲夫。彼の類い希なる想像力の背景には、幼少時代を過ごした沖縄がある。高校入学と同時に東京へ留学した金城だが、大学卒業したての24歳の時に「沖縄の美しさを紹介する作品を作りたい」と友人の中野稔と沖縄に戻り、『吉屋チルー物語』の製作に取り組んだ。作品は17世紀に実在したと言われる女流歌人吉屋チルーが遊女である身ゆえの悲哀を描いたもので、沖縄芝居の最もポピュラーな演目でもある。
『ノンマルトの使者』は、ウルトラセブン・シリーズの中でも評価の高い作品であり、そのストーリー展開に沖縄と日本の関係を重ねてみることもできる金城らしさのにじみ出ている作品。「地球はノンマルトの星、人間が侵略者なんだ」という言葉が胸をうつ。
YIDFFクロージング上映
あじまぁのウタ
Song of Ajima-
2002/カラー/35mm/88分/英語字幕版
監督:青山真治 撮影:たむらまさき、猪本雅三
編集:大重裕二 音楽:照屋林賢 プロデューサー:仙頭武則
出演:上原知子、照屋林賢、りんけんバンド
製作会社:レントラックジャパン、アジマァ、ランブルフィッシュ
提供:パンドラ
『EUREKA』(2000)で世界に名を知らしめた青山真治が、りんけんバンド・ヴォーカル上原知子の等身大の姿を映し出す。りんけんバンドに参加した経緯や上原のウタに対する思いを引き出す。そこにあるのは、上原の豊穣な歌声とライブやレコーディング風景といった彼女の日常的な音楽生活だ。映画は、ウタを聴かせ、上原を魅せ、沖縄の風を吹かせる。
2 | マブイ(魂)と神々の遊行 |
ナナムイ/第一章 神歌編
Nanamui / Part 1 Ceremonial Songsナナムイ/第二章 ユークイ編
Nanamui / Part 2 Yuqui- 両作とも:2003/カラー/ビデオ/79分
撮影:比嘉豊光 編集:田中藍子
製作、提供:琉球弧を記録する会
宮古島平良市西原(ンスムラ)では、守護神大主を祀るウハルズ御嶽を中心に、年間40以上もの祭祀行事が執り行なわれている。偶然に出会った祭祀に魅了されたカメラマンが、ナナムイの神女たちに微笑みかけられ,その手招きに引き寄せられリズミカルに御嶽に入って行く様子が面白いように映し出されている。神であり、女性であり、母である神女たちによって歌われるいくつもの神歌は逞しく、温かく壮快な響きをもって歌い続けられている。