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ロバート・クレイマー特集

「ドクス・キングダム」セミナー


 ロバート・クレイマーの『ドクス・キングダム』は1986〜87年にポルトガルで撮影され、めぐり来る人生と仕事について濃密かつ広く問いを投げ掛け、『ルート1』という最高傑作に至る、ロバートのキャリアの新たな段階を形成することとなった過渡期に当たる映画である。ロバートに賞賛を送る数少ない機会ということ、題名が示す(裏を読めば)様々な解釈(医者/ドクである映画の登場人物ポール・マクアイザック)以上にこのタイトルの引用によって実際の映画の中から指針とインスピレーションを見つけることができた。この映画が示す“映画の命題”は我々がドキュメンタリーと現代映画についての新しい議論の場の形成を試みるにあたり実に適切な指針となった。

 初回の「ドクス・キングダム」セミナーは2000年10月にポルトガル南東部にあるセルパという小さい町で行われた。この国自身とドキュメンタリーの置かれている全般的状況に関しての様々な考え方、情況や目的にまたがることが出発点だった。一方でポルトガルでは90年代後半までに10年続いたドキュメンタリー分野の大幅な変革が終わり、そこからは新世代の映像作家が生まれ、映像は国際水準に達した。もう一方で、ドキュメンタリーのコンテクストそのものの構造的変革は(他と同様にここでも)映画作品それぞれの再評価と探究の必要性を創出することになったのだと考える。大量に製作され、ドキュメンタリーは儲かったが、成功そのものにも苦しめられる羽目になった。その勢いは矛盾の地そのものであった。過去の例にも見られるように、ドキュメンタリーの強みはシネマ全般を再生し、形作る重要な場ということにあり、現代映画に最も必要な“息吹”である。しかし過去においては溢れる創造性、多様性、実験性が見られた(それは上映市場がなかったことと表裏一体であった自由)その同じ領域では明らかな規格化が進行している。そして何よりもテレビ業界の財源は明らかな規制力、“お手本作り”の原動力となった。加速化されて変化が起きていた:これらが意味するものは何か?

 新しいセミナーの計画はこの危機感と同時に偶然にも2つの国際協力団体―ヨーロッパ・ヨリス・イヴェンス財団とフランスのリュサにあるエタ・ジュネロー・デュ・フィルム・ドキュモンテールが興味を持ったことから生まれた。これらにポルトガルのドキュメンタリー機関であるアポールドクとセルパの市役所が加わり、現存する多くの映画祭や分析的な教育イベントに伴う形で、グループは様々な集いを計画した。「ドクス・キングダム」セミナーは色々混ざり合ったリラックスしたフォーラムを目指し、いくつか(それほど多くなく)の関連映画を上映してグループ作業を積み重ねながら議論をする。われわれの関心事は強烈な“参考例”(量の多さではなく)と映画の“表現方法”が中心であり、近年顕著に見られるような製作や配給に関わる問題ではない。

 真の国際事業として始まったこの集いは5日間に亘り開催され、北西ヨーロッパから、ユーゴスラビア、レバノン、ロシア、カンボジア、ブラジルなど13カ国から21本の映画を上映し、議論を設けた。映画の選考基準のひとつは異なる言語表現の使用、2つ目にはドキュメンタリー作家の大家と新米作家のバランスがある。長年に亘り認められている作家達から(ロバート・クレイマー、ヨハン・ファン・デル・コイケン、ロバート・フランク、アルタヴァスト・ペレシャン、エドゥアルド・クーティーニョ)若く著名な作家達までが(セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ、ペドロ・コスタ、賈樟柯(ジャ・ジャンクー))含まれている。各回の標準的な行程は、まず上映をしてから上映後2〜3人の映画作家による対話を行う。対話の前には研究者による基調講演と後には公開討議が行われた。多くの作家達が出席し(ドヴォルツェヴォイ、リティー・パニュ、ペドロ・コスタ、ピエール=マリー・グレ、ダニエル・グエン・ヴァン、ダニエル・アルビド、ストイコヴィチ、エヴァリン・ラゴ、カネルヴァ・セデストロム、ピエール・プリメテンス、マリー・クレメンス・パエス)特別ゲストと研究者らも(エリカ・クレイマー、セルジュ・ムーラン、ジャン・ブレシャン、ティエリー・ルナス、エマニュエル・ビュルドー)参加した。彼等は現在の兆候、ドキュメンタリー映画が直面している難問と現代映画全体の中にある位置を約100名のセミナー参加者と共に探った。

 次回の「ドクス・キングダム」セミナーは2002年9月、セルパで開催される。次回は山形国際ドキュメンタリー映画祭がその貴重な経験を動員して参加することとなり、他の設立団体と併せて我々はうれしく光栄に思う。それまでの間、ロバート・クレイマーの一大特集を組むまさに同じ年に、山形/ 2001と我々の稀なコラボレーションによって山形で開かれる“ドクス・キングダム・ジャーニー”の一躍を担うことを喜んでいる。

 映画を通じて世界に問いを投げかけ、映画そのものを熟視する:これより他にクレイマー、その人物と映画作家に賛辞を捧げる方法が果たしてあるだろうか。

ジョゼ・マニュエル・コスタ

キューレーター及びリスボン・ノヴァ大学で教鞭を執るかたわら、ドキュメンタリー映画学の研究者。ポルトガルのシネマテークの副館長、ヨーロッパ・フィルム・アーカイヴ・アソシエーションのメンバー(前会長)も務める。フラハティ、イヴェンス、ワイズマンや新しいポルトガル・ドキュメンタリーなど論文を多数発表。


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