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ロバート・クレイマー特集

“今”、“ここ”、“世界について”― ロバート・クレイマー特集


 ロバート・クレイマーは過去2度にわたり本映画祭に参加している。第1回山形国際ドキュメンタリー映画祭(1989)で上映された『ルート1』は最優秀賞を受賞。また1997年は審査員として参加し、その際オランダからのドキュメンタリー映画が該当するとのことで税関によるフィルムカットを余儀なくされたのは記憶に新しい。それに対しての抗議運動の中心的な役割を即座に担ったのもクレイマーであった。また、1回目に参加したときはその哲学的な風貌のもたらす孤高性により周りから孤立しているような感があったが、97年に再び来形の際はそれとは極めて対照的に若い作家との交流と対話を積極的に行っていた。また山形で出会った日本の若い監督と共同での新しい映画の企画が生まれつつあったのだが、1999年11月10日に新作『平原の都市群』の完成直前に、フランスのルーアンで急逝する。

 ドキュメンタリーとフィクションの境界線上に現代社会の本質を政治的・批評的立場から見つめる作品を発表しつづけてきたロバート・クレイマー。映像作家として不動の地を築きながらも、新たなる世界を苦悶の内に模索し、開示したクレイマーの映画群を今回日本で初めて一挙に公開する。今回の企画の大前提となったのはなるべく多くのクレイマー作品を紹介することであったが、作品や台本の探索は当初想像していたよりも遥かに困難を要した。作品自体もなるべくクオリティが高いものと希求していたが、最後は時間の限界という現実の事態から逃れることができなかった。しかしながら、数本はニュープリントで上映できることはなによりの喜びである。また懐古する行為のみで始終することを回避すべく、去年ポルトガルのセルパ市で発祥したドキュメンタリー映画のセミナー「ドクス・キングダム」(『ドクス・キングダム』から引用した)をポルトガルのシネマテークと前回のイヴェンス特集からの再来であるヨリス・イヴェンス財団との協力を得て「ヤマガタ・ドクス・キングダム」セミナーを開催する。クレイマーの次世代を担う山形に結集する若い映像作家や映画学校の学生を含めた大討論会を予定している。ロバート・クレイマーが提示したその世界との対話を試みると同時にドキュメンタリーの未来を模索する。クレイマーがフランスへと活動の拠点を移した直後から遺作まで音楽を長年担当し、また片腕でありジャズプレイヤーとしても著名なバール・フィリップスによる演奏と講演も用意している。

 最後に、今回の特集にあたり、多くの方からの資料提供が礎となり、何人かのクレイマー研究者やファンによって公開されているネット上の貴重な資料を参考にさせていただいたことを明示したい。また、資料探しにやっきになり、逸る心を押さえきれない私を暖かく包み込むようなメールで何度もヒーリングしてくださった、さらにはこの企画の最も強力な相棒であり、ゲストとしても参加してくださることになったエリカ・クレイマーさんにも心より感謝いたします。

ロバート・クレイマー特集コーディネーター 小野聖子

- 山形映画祭97で検閲問題を抗議するロバート・クレイマー


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