インターナショナル・コンペティション
●10月6日−10日 [会場]YC 山形市中央公民館ホール(6F)、CL 山形市民会館大ホール
山形映画祭第1回目からのプログラム。世界中から長編を対象に募集し、応募された1,132本から厳選。バラエティに富む世界の最先端の表現が凝縮した珠玉の15本を紹介します!
- 審査員
- オスカー・アレグリア(映画監督) •『シンシンドゥルンカラッツ』
エリカ・バルサム(映画批評家)
陳界仁(チェン・ジエレン)(アーティスト、映画作家) •『風が肉体を破壊する』
ヤンヨンヒ(映画監督) •『揺れる心』 •『愛しきソナ』
張律(チャン・リュル)(映画監督) •『白塔の光』
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アンヘル69
Anhell69 - コロンビア、ルーマニア、フランス、ドイツ/2022/75分
監督:テオ・モントーヤ Theo Montoya
同世代のクィア・コミュニティの友人たちと、幽霊の出てくるB級映画制作を故郷コロンビアのメデジンで企画した監督。SNSで「Anhell69」というアカウント名をもつ友人アンヘル(Angel)を主人公に予定していたが、彼も薬物過剰摂取で命を断つ。2016年の政府と反政府左翼ゲリラFARC間の和平合意は儚く、未だ確固たる将来は見えない。監督は、自らが横たわる棺を載せた霊柩車でこの暴力的で保守的な街を走りつつ、仲間とともに、夢、恐怖、映画制作の葛藤を回想し、手法を凝らした描写で真摯に生きている「あかし」を映画に刻む。
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ターミナル
The Bus Station - アルゼンチン/2023/62分
監督:グスタボ・フォンタン Gustavo Fontán
アルゼンチンのコルドバ州にあるバスターミナル。労働者たちが行き交うこの場所は、活気があるというよりはむしろ穏やかな気配に包まれている。仕事の行き帰り、旅の出発あるいは終着点、見送り、待ち合わせ……。自在なテンポで撮られた人々の姿に重ね合わされるのは、愛についての追憶だ。初めての恋、生涯たった一度の愛、失われた関係への思慕。映像と声とが幾重にも層になって愛の物語が生まれ、言葉が途切れては再び続いていく。差し込む光の粒子や空気の流れ、夜の暗さの細部までも捉えるかのような繊細なショットに目を奪われる。
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交差する声
Crossing Voices - フランス、ドイツ、マリ/2022/123分
監督:ラファエル・グリゼー、ブーバ・トゥーレ Raphaël Grisey, Bouba Touré
1977年にマリ人移民労働者らによって設立された農業共同体ソマンキディ・クラ。パリの工場で安い賃金で搾取され、劣悪な環境で暮らしていた彼らが、農民として自立し豊かに生きることを目標に、マリに戻り土地を得て灌漑を行い、作物の栽培を開始した。設立者の一人ブーバ・トゥーレによりパリの路上とソマンキディ村で記録され続けてきた膨大なアーカイブ写真と映像、そして収集された音源が、一つの芸術実践として編集され、そのラディカルな抵抗・帰還運動を蘇らせる。植民地時代以降の同胞の苦難から、グローバル企業による大規模農業の弊害まで、アフリカの人々と大地が経験してきた近現代史を見つめる、一当事者による力強い記録。
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東部戦線
Eastern Front - ラトビア、ウクライナ、チェコ、アメリカ/2023/98分
監督:ヴィタリー・マンスキー、イェウヘン・ティタレンコ Vitaly Mansky, Yevhen Titarenko
2022年2月ロシアによる侵攻を受け、本作の共同監督でもあるイェウヘン・ティタレンコは、友人たちと共にウクライナ東部戦線にボランティアの救護隊員として赴く。映画は、6ヶ月にわたる、若者たちの前線での経験を、焼けこげたビルや車両、傷つき苦しみの声を上げる兵士たち、飛び交う銃弾、砲撃の映像とともに生々しく伝える。同時に、家族や友人たちとの束の間の休息の時間を通じて、2014年以来の東部戦線での経験や、ロシアのプロパガンダに踊らされた人々の体験が語られる。一見のどかな野辺のくつろぎの時間が終われば、若者たちは再び戦場に向かって旅立つ。
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日々“hibi”AUG
"hibi" AUG - 日本/2022/120分
監督:前田真二郎 Maeda Shinjiro
作者が設定した「撮影/編集ルール」に則り、8月の「連日15秒x31カット」を15年間連ねることで生まれた長編。ルールとは、満月の日は深夜0時に撮影するなど月の運行に準じて毎日撮影時間帯をずらし、撮った映像から15秒を切り出しつなげていくというものだ。約1ヶ月かけて日の出から日没までの時間を映像に推移させ、撮影できなかった日には日付が表示される。ショットの集合体は互いに連関しないが、時折挿入される音楽や朗読により撹乱され、そこに作者のまなざしがふと立ち現れる。見る者の記憶を呼び覚まし、意味から解き放ち、新たに記憶を紡ぐための、映画の試み。
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あの島
The Island - フランス/2023/73分
監督:ダミアン・マニヴェル Damien Manivel
翌日にはモントリオールへ旅立つロザ。彼女と友人たちはその夏最後のパーティを、“あの島”と呼ぶ岩の周りで続けることにする。しかしそこに「ロザとの最後のパーティ」を演じる俳優たちの稽古場での練習風景、時間帯の異なるリハーサルの様子が挿入され、作品全体として多層的な構成をなしながら、物語は進んでいく。物語、そして演技の中で生起する感情と、夏の夜の闇の中では見えなくなってしまった顔や手の些細な表情や動きが、それぞれに作品を彩っていく。
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ニッツ・アイランド
Knit's Island - フランス/2023/98分
監督:エキエム・バルビエ、ギレム・コース、カンタン・レルグアルク Ekiem Barbier, Guilhem Causse, Quentin L'helgoualc'h
ゾンビで溢れた世界でサヴァイブせねばならないオンライン・ゲーム『DayZ』。その仮想空間を利用し、匿名のユーザーたちが交流しているコミュニティの内側にフランスの映画クルーが潜入、963時間の取材を敢行する。ゲーム内で暴虐を尽くす集団、博愛主義者のグループ、単独行動を続けるユーザーらと出会い、それぞれがプレイに没入してきた理由がインタビューで語られていく。画面のアバターに重なる声、マイクがひろう生活音が、オフラインにいる生身の存在を伝える。やがて映画クルーは、ゲーム空間の限界を探索する旅へ向かう。
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何も知らない夜
A Night of Knowing Nothing - インド、フランス/2021/100分
監督:パヤル・カパーリヤー Payal Kapadia
映画を学ぶ学生のL(エル)が恋人へあてた手紙が学生寮の片隅で発見された。女性の朗読に託された架空の物語は、Lの恋愛の破局の背後にあるカースト制へと導かれ、さらに2016年に実際に起こった政府への抗議運動、極右政党とヒンドゥー至上主義者による学生運動の弾圧事件へと接続される。若者の日常の光景、Lの悲恋の逸話、路上デモや警官との衝突のシーンにおける緊迫した闘争の様子がモノクロームの映像の中で融合し、フィクションと現実が境界をなくしていく。抵抗する者たちの情熱や信念、映画作家たちの意志の記録とともにインドの現在を描き出す。
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ある映画のための覚書
Notes for a Film - チリ、フランス/2022/104分
監督:イグナシオ・アグエロ Ignacio Agüero
19世紀、チリの一部となったばかりの先住民族マプチェの土地アラウカニア。鉄道建設の技師としてギュスターヴ・ヴェルニオリーがベルギーから赴任した。監督は、彼の日記を基に俳優を配して足跡を辿り、往時の冒険を回想する。スタッフ、監督自身が時間軸を超えてフレームの中と外を自在に行き交いつつ、鉄道遺構、風景、人々の間を往還する映画の試みは、同時に、植民地化の深い傷跡が残るマプチェ・コミュニティで続く土地闘争を描き出す。本作は、アラウカニアの土地の記憶と現在に生きる個々人の経験を等しく見つめることで、ひいては世界と映画に対する新しいアプローチを実践している。
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自画像:47KM 2020
Self-Portrait: 47 KM 2020 - 中国/2023/190分
監督:章梦奇(ジャン・モンチー) Zhang Mengqi
監督の父の故郷「47KM」と呼ばれる中国山間部の村を舞台とした連作の最新作。2020年、コロナ禍にあっても村では例年どおり四季を通じて農作業が繰り広げられる。前作で完成した「青い家」では、子どもたちや村の人々が集い、監督と一緒に体操をしたり、映画を見たり。感染症の噂は耳に届けども、大人も子どもも日々の暮らしに忙しい。皆がカメラに向ける表情は和やかで、監督もカメラももはや共同体の一員になったかのようである。中国三年大飢饉の体験記録収集プロジェクトFolk Memory Projectの一環で制作された「自画像:47KM」シリーズの10作目。
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紫の家の物語
Tales of the Purple House - レバノン、イラク、フランス/2022/184分
監督:アッバース・ファーディル Abbas Fahdel
映画作家と、画家であるその妻が、レバノン南部にある紫の家で暮らしたコロナ禍の二年間を、三部構成で示していく。猫たちと静かな生活を送りながら、隣人の移民の子供と交流を重ね、絵を描き続ける日々。リビングのテレビには、小津安二郎やアンドレイ・タルコフスキーらの映画の一場面が流れていく。他方で2020年に起きた港湾の大爆発事故、反政府デモの様相、経済危機に追い討ちをかけるウクライナ戦争の勃発も、彼らの日常と地続きの出来事として記録された。崩壊する世界を生きること、そこに芸術が存在する意義にも迫っていく。
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三人の女たち
Three Women - ドイツ/2022/85分
監督:マキシム・メルニク Maksym Melnyk
カルパチア山脈の麓にあるウクライナ・ストゥジツヤ村。大学院の修了制作のため母国に戻った監督は、村に暮らす三人の女性たちと出会う。生物学者として日々節足動物の採集に勤しむネーリャは、カメラも気にせず我が道を突き進み、村人に年金を手渡している郵便局員のマリーヤは、監督たちを伴い村人宅を訪ねてまわる。一人で牛を飼育する農家のハンナは、悪態をつきつつ撮影を拒否するが……。生活のためにこの地に留まるか他国へ去るか人々が選択を迫られる村で、彼女たちの確固とした生の営みが、移ろいゆく季節とともに重層的に編み上げられる。
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不安定な対象 2
The Unstable Object II - アメリカ/2022/204分
監督:ダニエル・アイゼンバーグ Daniel Eisenberg
ドイツ、ドゥーダシュタットにあるオットーボック社の義肢製造工場、南フランス、ミヨーにあるメゾン・ファーブルの高級革手袋縫製アトリエ、トルコ、イスタンブールとデュズジェにあるレアルコム社のジーンズ工場という三つの工場での製造工程を「持続的観察」の手法によって徹底的に記録する実験的ドキュメンタリー。消え去る運命にある手仕事の現場に密着した「視覚的思考」の試みでもある、ナレーションも字幕も排した労働のイメージの時間は、私たちを見ることの陶酔へと誘いながら、手による思考と分析の未来への問いかけともなっている。
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訪問、秘密の庭
The Visit and a Secret Garden - スペイン、ポルトガル/2022/65分
監督:イレーネ・M・ボレゴ Irene M. Borrego
前衛芸術に参画した女性たちの最初の世代とされ、スペイン有数の画家のひとりであったイサベル・サンタロは、1980年代以降、芸術の表舞台から姿を消した。彼女の姪である監督は、現在では家族との付き合いも断ち隠遁生活を送る彼女の住まいを訪ねる。 本作はイサベル・サンタロという芸術家の作品や生涯を詳しく紹介する代わりに、猫とともに暮らす年老いた女性のたたずまいをじっと見つめる。彼女はなぜ絵画を発表するのをやめたのか。なぜ孤独な生活を選んだのか。やがて彼女が語り出す言葉が、芸術家として生きること、そして女性として生きることの真髄に触れる。
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ホワット・アバウト・チャイナ?
What About China? - アメリカ、中国/2022/135分
監督:トリン・T・ミンハ Trinh T. Minh-ha
中国南東部で1993、94年に撮影されたHi8ビデオ映像が、30年後の今日、作家自らの手で新たに組み直された。客家の伝統的な円形集合住宅、土楼をイメージの中心に置き、さらに古代の詩や歌謡、水墨画、そして自叙伝や詩、哲学的考察を語る複数の「私」の声が重ねられる。その映像と音響の独特なモンタージュが、中国という国とその社会的変容についての豊かな連想を誘う。農村部の急激な都市化、生活のデジタル化、そしてパンデミックが襲った現代の中国社会。「調和」の概念をキーワードに、その過去と現在、未来を考察する。