第1部 自画像を描き直すアフリカ
アフリカからの視点でアフリカ像を再構築するという衝動は、近年のドキュメンタリーの世界でも大きなうねりとなって表れている。長い間、描かれ分析される立場に甘んじてきたアフリカが、己の歩んできた道を新たな視点で見つめ、自らの手で歴史を編む姿を紹介する。
モザンビーク 映画の誕生
Kuxa Kanema: The Birth of CinemaKuxa Kanema: O Nascimento do Cinema
- モザンビーク、ポルトガル/2003/ポルトガル語/カラー/デジタル・ファイル/52分
監督:マルガリーダ・カルドーゾ
撮影:リサ・ハグストランド
編集:イザベル・ラセリ、ティモシー・ミラー
製作会社:Lapsus, Filmes do Tejo, Derives
共同製作:ARTE France, ARBF
提供:マルガリーダ・カルドーゾ
モザンビーク政府が独立直後の1975年、最初に行った文化事業は国立映画研究所(NIC)の設置だった。だが1990年の憲法改正により、人民共和国から共和国へと体制が変わると、大事業であったNICは縮小され、スタッフは働き続けながらも、来るべき退職の日を待つこととなった。NICの建物は1991年に火災に遭い、社会主義革命の気運に満ちていた独立後11年間のニュースリールを含む映像資料は付設の倉庫の中で朽ち、忘れ去られようとしていた。
植民地的誤解
The Colonial MisunderstandingLe Malentendu Colonial
- カメルーン、フランス、ドイツ/2004/英語/カラー/デジタル・ファイル/76分
監督:ジャン=マリ・テノ
撮影:ディーター・シュトゥルマー、ジャン=マリ・テノ
編集:クリスティアン・バッドグリー
録音:ジャン=マリ・テノ、パオリン・タボウ
ミキシング:クリストフィー・ヘラル
製作:べーベル・マウフ、ジャン=マリ・テノ
『アフリカ、お前をむしりとる』(YIDFF '93)などで知られるジャン=マリ・テノが、アフリカの植民地化という歴史的犯罪とその悲劇の構造に切り込んだ力作。アフリカにおいて異教徒たちにキリスト教を布教し、その延長上にヨーロッパ文化と規律を広めることを使命としたドイツ人宣教師たち。その検証を通じて「植民地的誤解」を明らかにしていく。キリスト教の布教は、この作品では、ヨーロッパのアフリカ植民地政策の尖兵として、さらに言えば北半球と南半球の今日も続く関係を観念的に表したモデルとして見なされる。2004年という製作年は、1904年のドイツによるヘレロの人々の虐殺からちょうど100年にあたり、虐殺に関係していたナミビアにおける宣教師の役割が特に注目される。植民地政策がアフリカ固有の信仰と社会構造を破壊し、近代化への唯一の道筋であると言わんばかりにヨーロッパのそれに置き換えられていった過程が詳らかにされる。作中、F. カング・エヴァン教授が語るように、西洋人が土地を奪ったことは許せても、精神と魂を奪ったことは許すことができないのだ。
キューバのアフリカ遠征
Cuba, an African OdysseyCuba, une odyssée africaine
- フランス/2007/フランス語/カラー/DVD/190分
監督:ジハン・エル・ターリ
撮影:フランク・ピーター・レーマン
編集:ジリー・ボヴォン
音楽:Les Frères Guissé
製作会社:Temps Noir, Big Sister
提供:Big Sister
コンゴ共和国(現コンゴ民主共和国)の初代首相ルムンバ暗殺への報復を意図したチェ・ゲバラの従軍から、南アフリカにおけるアパルトヘイトの崩壊までの間に、30万人ものキューバ人がアフリカの革命勢力の側に立って戦った。本作は、資源とイデオロギーをめぐって、冷戦期における最も激しい抗争の舞台となった、アフリカの革命に対するキューバの支援を描いた、未だ語られたことのない物語である。
隠された心臓
Hidden Heart: The Story of Christian Barnard and Hamilton Naki- スイス、ドイツ、南アフリカ/2008/コサ語、英語/カラー/ デジタル・ファイル/93分
監督:クリスティーナ・カレアー、ヴェルナー・シュヴァイツァー
撮影:マイケル・ハモン
録音:ジョウ・ドラミニ
編集:パトリシア・ワグナー
製作:ヴェルナー・シュヴァイツァー
提供:Dschoint Ventschr Filmproduktion AG
1967年12月3日、アパルトヘイト下の南アフリカ・ケープタウンで、心臓外科医のクリスチャン・バーナードが世界初の心臓移植手術を成功させた。しかし、バーナードの偉業は彼一人の力で成し遂げられたものではなかった。その後、2001年になって、各新聞は黒人医師ハミルトン・ナキもこの世間を沸かせた手術に関与していたと突然主張を始めたのだ。なぜ、ナキの栄誉は表舞台から隠されたのか。慎重に選ばれた当時の証人たちによる、万華鏡のように多面的な証言を通じて、二人の男たちが批判的に、しかし公平に分析される。
軍靴と自転車 ― 第二次世界大戦で戦った南アフリカ人
A Pair of Boots and a Bicycle- 南アフリカ/2007/英語/カラー/DVD/88分
監督、提供:ヴィンセント・モロイ
撮影:エドウィン・ウェス、ヴィンセント・モロイ
編集:トゥンガイ・フルサ
製作:エドウィン・ウェス
なぜ、自国で抑圧された人間が、抑圧する側の戦争に荷担し勇敢に戦ったのだろうか。そして、勝利を収めた側は「勇敢にして際立った働き」に対し、帰国後に何を与えたのだろうか。このきわめて私的で魅力的な調査において、南アフリカのドキュメンタリー作家ヴィンセント・モロイは答えを求め、ソウェトの戦争経験者の家の居間からエル・アラメインまで旅をする。そして、連合軍の北アフリカ戦線における南アフリカの黒人兵士たちの重要な貢献を明らかにするのだ。
母なる大地
Motherland- アメリカ、イギリス/2010/英語/カラー/デジタル・ファイル/124分
監督、撮影:オーウェン・アリク・シャハダ
編集:ベテリヘム・ゼレアレム
音楽:ソナ・ヨバテ、オケイシア、パウリーノ・イク
監修:アンソニー・ジャヴァン・ハリス
エグゼクティブ・プロデューサー:コスビー・ビクペ
製作:M.K.アサンテ
提供:Halaqah Films
奴隷制と植民地主義の現在を世界各地に取材し、話題と論争を巻き起こした『500 Years Later』で知られるオーウェン・アリク・シャハダ監督が、アフリカのアイデンティティを新たに描き直そうと試みた、迫力に満ちたドキュメンタリー。アフリカの歴史、文化、政治、そして現代の課題を融合させることによって、アフリカを概観し、過去の栄光と威厳からその複雑な歴史まで、ダイナミックな大陸の新しい物語を紡ぎ出す。
独立
Independência- アンゴラ/2015/ポルトガル語/カラー/デジタル・ファイル/110分
監督:マリオ・バストス
脚本:コンセイサオ・ネト、パウロ・ララ、マリオ・バストス
撮影:カミ・ララ
編集:チャールズ・アレクサンダー、カミ・ララ、ゼノ・モニャック
音楽:ヴィクター・ガマ
製作:ジョルジュ・コーエン、パウロ・ララ
提供:Fradique(マリオ・バストス)
アンゴラの人々は14年もの間、独立のために戦った。しかし独立を果たしてすぐに、今度は2002年まで続く27年間の内戦が開始された。ポルトガル植民地時代の記憶から始まるこの物語は、植民地支配とその負の遺産に抗って戦い、生き抜いた人々が自らの言葉で紡いだ物語である。
ナセル 現代のファラオ
Nasser: Egypt's Modern Pharaohs- エジプト、フランス、南アフリカ/2015/アラビア語、英語、ロシア語/ カラー/デジタル・ファイル/97分
監督、製作:ジハン・エル・ターリ
撮影:フランク・ピーター・レーマン
編集:ジリー・ボヴォン、フィリップ・ルージェ
音響:ジビー・ギセ
進行:カリム・ブトロス=ガル
監修:ジェニファー・サバ
エグゼクティブ・ブロデューサー:ジェネヴィーヴ・ド・モントゴリファー
提供:Big Sister
『キューバのアフリカ遠征』など、圧倒的な取材力でアフリカの現代史をスクリーンに載せてきたジハン・エル・ターリ監督がエジプトに取り組んだ最新作。民主主義と独裁軍事政権がせめぎ合うなか、ナセル大統領は、根深い不平等を根絶すべく独自の社会主義を築こうとした。しかし、目的遂行のためには反対勢力の抑圧や言論封殺もためらわないナセルは、市民社会を破壊し、エジプトをイスラエルとの消耗戦争へと導いた。さらに、突然の死によってその社会主義的目論みは廃れ、後継者サダトの大統領就任に道を開いたのだった。
遥かなる故郷 ― 遺骨返還を求めて
Skulls of My People- 南アフリカ、ナミビア/2016/英語/カラー/Blu-ray/68分
監督:ヴィンセント・モロイ
撮影:マリウス・W・ヴァン・グラアン、ティヤネ・ニエンベ
編集:アイカイェ・マシス
音楽、音響:ゼシュ・マシカ
製作:マクガノ・ママボロ、ロディ・マツェテラ、ヴィンセント・モロイ
提供:Puo Pha Productions
ナミビアでは、ドイツ植民地時代に20世紀最初の大虐殺とも呼ばれるドイツ軍による先住民族の虐殺という悲劇が起こった。本作は、この知られざる悲しい歴史に、南アフリカを代表する若手監督が挑んだ作品。20世紀初頭、先住民ヘレロとナマの反乱に手を焼いたドイツ軍は、10万人を超える先住民を無差別に殺戮、さらに数百もの犠牲者の遺体は科学的研究のためとしてドイツに持ち去られた。先住民の土地の収奪という悲劇の根元にも遡りながら、現在の市民による遺骨返還請求までを描く。強大な相手に勝ち目の薄い戦いを挑む、市井の人々の物語が紡がれる。