台湾「全景」の試み |
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全景
1988年、インディペンデントのドキュメンタリー製作集団として「全景映像工作室」を設立。1949年から1987年まで戒厳令の敷かれた台湾でのドキュメンタリー製作は社会に認知されない閉ざされた状況に置かれていた。その後の民主化の波にもまれ急激な変化を遂げるなか、「全景」は台湾ドキュメンタリー史を築く重要な役割を担い、またそれは彼らが公共メディア運動を興していったことと軌を一にしている。製作したテレビドキュメンタリーシリーズ『人間灯火』(1990)は台湾テレビドキュメンタリー史上の名作のひとつと名指され、放映後、自分でも撮りたいという若い人たちの要望を受けたのをきっかけに、1991年から移動型映画ワークショップ「地方記録撮影工作者訓練計画」を全景で実施。映画製作の垣根をはずすべく台湾全土あらゆる団体にコンタクトをとりながら活動。ソーシャル・ワーカーや聴覚障害者、環境保護活動家、先住民など、様々なバックグラウンドの人々が学び、作品を発表していった。ワークショップは台北、花蓮、台中、高雄、それぞれに半年かけてまわった。1996年に名称を「全景伝播基金会」に変更、参加メンバーに作品製作の支援と資金調達を提供している。
YIDFF '99では「全景」と映画監督・原一男率いる「CINEMA塾」が山形に集まり、スペシャル・プログラム「事例討議:全景(台湾)&『CINEMA塾』(日本) 映画運動の試み」が企画され、そこで各製作集団の作品上映と“共同体の映画・映画の共同体”“民衆のドキュメンタリー運動”などのテーマで討論や交流会が行われた。
■製作会社、提供:全景伝播基金会
梅の実の味わい
A Taste of Plum梅子的滋味
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2004/北京語、台湾語、客家語/カラー/ビデオ/142分
監督、編集:郭笑芸(グオー・シャオウィン)
撮影:林立翔(リン・リーシャン)、楊重鳴(ヤン・ヅォンミン)
震源地付近の南投県國姓郷南港村では、地崩れにより村落が埋没。母親と家屋を失った朱三兄弟を中心に、復興に立ち向かう被災民たちを追う。思惑の違いから起こる政府との対立や、観光地化していく村で、自らの被災体験を売り物にしてでも生き抜こうとする人々の生きざまが、等身大の台湾の姿を観るものに投げかけてくる。
郭笑芸(グオー・シャオウィン) 大学卒業後、編集と監督のキャリアをスタートさせ、1988年から全景に参加。運営、企画とドキュメンタリー製作に携わる。 |
部落の声
Radio Mihu部落之音
- 2004/北京語、タイヤル語/カラー/ビデオ/136分
監督:李中旺(リー・チョンワン)
撮影:蔡静茹(ツァイ・ジンルー)
編集:李中旺、楊凱諺(ヤン・ガイエン)
先住民タイヤル族の村である台中県和平郷自由村雙崎部落では、詩人で小学校教師のワリス・ノガンが、伝統的共同生活をベースに仮設住宅区を設立。自助的復興を目指すが、古老たちとの見解の相違や、ワリスたちだけに集まる仮設住宅区への注目が、村人たちの不公平感を生むなど、軋轢が深まっていく。震災という過酷な状況下での、人間の暗い部分が浮き彫りにされるが、筋回しとなっている違法FMラジオ「部落の声」の朗らかな語り口が、未来への希望と人々の力強さを感じさせてくれる。
李中旺(リー・チョンワン) 5年間テレビ番組やドラマの撮影をした後、全景の創設に関わる。その後もテレビドキュメンタリーの撮影や監督、短編や16mm、ドキュメンタリーの撮影監督として活躍している。 |
天下第一の家
The House Masters天下第一家
- 2004/北京語、台湾語/カラー/ビデオ/89分
監督:呉乙峰(ウー・イフォン)
撮影:郭笑芸(グオー・シャオウィン)、楊重鳴(ヤン・ヅォンミン)
編集:陳博文(チン・ボーウェン)
メディアや政府関係者たちに忘れられた南投県國姓郷石門村。その村で被災民自ら復興の道を探ろうとする過程を記録した作品。頑なにテント生活を続けようとする老人や、震災で粗悪建材の使用が露呈した集合住宅「天下第一の家」の住民たちを追う。老人はやがて孤独のうちに世を去り、集合住宅の住民たちは建設業者を訴えるが、司法の矛盾をつきつけられる。最後に流れる、裁判が未だ継続中というテロップが、震災復興の道のりの険しさを感じさせる。
呉乙峰(ウー・イフォン) |
中寮での出会い
An Encounter with Chungliao在中寮相遇
- 2005/北京語、台湾語/カラー/ビデオ/356分
(第1集139分 第2集99分 第3集118分)
監督:黄淑梅(ホアン・シュウーメイ)
撮影:楊重鳴(ヤン・ヅォンミン)、林立翔(リン・リーシャン)
編集:孫仲輝(ソン・チョンホイ)、楊凱諺(ヤン・ガイエン)
広大な南投県中寮郷の被災地を丹念に巡りながら撮影された作品。日本植民地時代にバナナの集積地として栄えた街とその後の衰退の歴史、電力供給の中継基地として高圧鉄塔が立ち並んだために離散をよぎなくされた村、都市の廃棄物の投棄を受け入れたために起こった環境汚染、換金作物を植えたために起こった森林破壊にともなう土石流といった様々な問題が、素直なカメラワークで描かれ、単なる復興の過程だけを追ったものとは異なる作品となっている。
黄淑梅(ホアン・シュウーメイ) 1990年の夏に全景のワークショップにインターンとして参加。これまで『生活映像』シリーズなどの製作や、1992年から全景の地方上映のアレンジやプロモーションを担当してきた。 |
三叉坑
Three Fork Village三叉坑
- 2005/北京語、タイヤル語/カラー/ビデオ/144分
監督:陳亮丰(チェン・リャンフォン)
撮影指導:李中旺(リー・チョンワン)
撮影:蔡静茹(ツァイ・ジンルー) 編集:林錦慧(リン・ジンホゥイ)
わけあって50年ほど前『部落の声』の雙崎部落から三叉坑部落へと移住した、タイヤル族の小村を記録し続けた作品。震災により集団移転をよぎなくされたこの村の再建過程で起こる悲喜こもごもの出来事を、カメラは村人に寄り添いながら記録している。また、それだけではなくその後の台風による水害なども織り込みながら、震災後5年を経てもまだ復興を果たせなかった村の抱える問題の本質とはいったい何なのかを考えさせられる作品となっている。
陳亮丰(チェン・リャンフォン) 1994年より全景に参加。ドキュメンタリー製作や自分たちを語るのに不利な立場に置かれているグループやコミュニティへの支援に携わる。本作が初監督作品。 |