English

審査員
オサーマ・モハンメド


●審査員のことば

 美と正義――これら二つは、互いへの合い言葉だ。どちらも喜びを表している。私は小学校教師の父、度胸が据わっていて皮肉屋の母、それに兄弟姉妹が9人という貧しい家庭に生まれた。家族全員が瞑想、問い、愛でもって生きていた。家の中にはラジオもテレビもなかったため、私たちはよく自分たちのイマジネーションを「見て」いた。母が歌う美しい歌の中で美と正義をつなげるもの、ビッグバンの不思議な音楽を見たのだ。それが私たち家族の富であり、喜びだった。映画とは、存在を分かち合い、自分が存在する感動を探り、自分が人間であることを確認する喜びである。人間であることの喜びを実感する。それは、自分の自由を確認する喜び、自由と冒険と、絶対的存在である神に対し背くという喜びだ。それは、神の支配下にある中で、神を茶化すという大いなる喜びのスリルなのだ。自虐と罪の告白の喜び。生き延びるために万能薬を吸うという幻想の喜び。映画は時の子宮、宇宙を詳細に説明するもの、一部分の中に全体があるということだ。イメージは、その作り手よりも強烈で深い。イメージは感覚に近いように見える。感覚はイメージの炎、そしてイマジネーションだ。存在を分かち合うことは、自分のイマジネーションを示して分かち合うことなのだ。映画はパワーになったり、神になったりする。感覚のレンズは、映画と真実を探求し、時の中に新たな時を埋め込み、映画の終わりとともに終わる線形時間を変えて、映画的な真実を創り出す。

 もしシリアの影絵の第一人者であるザキ・コルデロが虐待され、殺されたとしたら、人生とは何なのだろう? 映画の美と正義とは、被害者の物語を語り継ぎ、ハイエナが作る映画によって、未来が野蛮で残忍な忘却の彼方に消えるのを防ぐことにある。いまだにシリアと世界を支配する人食い人種、彼らに媚びるハイエナがいるのだ。


オサーマ・モハンメド

1954年、シリア・ラタキア生まれ。79年に全ロシア映画大学(VGIK)卒業。在学中の78年に初の短編ドキュメンタリー映画『ステップ・バイ・ステップ』を卒業制作。初の長編劇映画『Stars in Broad Daylight』(1988)は、バース党政権の過酷な支配下にあるシリア社会を、最も痛烈に批評した作品として広く認められる。シリア国内での上映はかなわなかったが、カンヌ映画祭監督週間で上映され絶賛を受けた。2作目の長編『犠牲』(2002)は、その複雑さと息をのむ映像美により、ソ連の映画学校が生んだ、最も個性的で優れた技量を持つ映画作家という地位を確立する。11年にパリへ亡命してからは、新しい映画的な冒険に乗り出した。『シリア・モナムール』(YIDFF 2015優秀賞)は、ウィアーム・シマヴ・ベデルカーンとの共同監督作品。カンヌ、ベルリン、MOMA、DOX BOXなど、多くの映画祭やアカデミーで講義や講演を行う。15年には、個人的で人道的・芸術的な活動が認められ、プリンス・クラウス賞を授与された。



ステップ・バイ・ステップ

Step by Step

シリア/1978/アラビア語/モノクロ/デジタル・ファイル(原版:35mm)/22分

監督:オサーマ・モハンメド
撮影:ハンナ・ワルド
音楽:アブドラティーフ・アブドルハミード
提供:オサーマ・モハンメド

子供たちは毎日、村のぬかるんだ道を歩いて学校に通う。しかし彼らが貧困を抜け出すには、軍隊に入るしか道はない。農民たちは何世代にもわたって兵士へと変えられ、そして貧しい人たちは、労働力として大量に地方に送り込まれた。バース党政権の支配下にある人々の真実をとらえた戦慄のポートレイトは、観客の心をとらえて離さない。



犠牲

Sacrifices

シリア、フランス/2002/アラビア語/カラー/デジタル・ファイル(原版:35mm)/113分

監督、脚本:オサーマ・モハンメド
撮影:エルソ・ローク
編集:マルティーヌ・バッラケ
出演:ファーレス・アルヒルー、アマル・オムラーン、ハラ・オムラーン、カリース・バッシャール、ミールナ・ガンナーム
製作:ムハンマド・アルアハマド、グザヴィエ・カルニオ、ピエール・シュヴァリエ
製作会社:National Film Organization (Syria)、AMIP、Arte France
提供:オサーマ・モハンメド

大家族の祖父が、自身の名前を孫の一人に授ける前に亡くなる。残された、父母の異なる3人の孫に降りかかる因習的なしがらみ。幻想的かつ魅惑的な映像とともに、家長制度に伴う暴力や権力がいかに宗教的な言葉遣いや儀礼より正当化され、永続的なものとなるかを照射する寓話的な作品。