ラ・カチャダ
Cachada--The OpportunityCachada
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エルサルバドル/2019/スペイン語/カラー/DCP/81分
監督、脚本、撮影、録音:マレン・ビニャヨ
編集:フラン・バルバ
音楽:アムネシカ
音響:エドゥアルド・カッセレス
プロデューサー:マレン・ビニャヨ、 アンドレ・ガトフロイント
提供:La Jaula Abierta/マレン・ビニャヨ
エルサルバドルの露店で生活の糧を得るシングルマザー5人が演劇のワークショップに参加し、講師とともに劇団「ラ・カチャダ」を立ち上げる。リハーサルを繰り返すうちに、彼女たちは自分たちの生活や状況に向き合うことになる。それは社会全体が許容している、女性に対する不当な暴力のサイクルだった。哀しみを肥った肉体に秘めて陽気にふるまう女たちは、植えつけられたトラウマを乗り越えることができるのか。本作が初の長編監督作品となるマレン・ビニャヨは、ラ・カチャダの活動に1年半密着して、その魅力を存分に映像に焼きつけた。(IT)
【監督のことば】私がこの映画の登場人物たちに出会ったのは、2010年、卒業制作となる短編ドキュメンタリーの撮影のために、スペインからはるばるエルサルバドルへ赴いたときのことだった。取材対象である現地のNGO団体が、街頭で物売りをして生活する人々の子どもたちのケアを主な活動内容としていて、マガリやマグダ、ルースやチレノやウェンディは、そんな母親たちのなかにいたのである。
初めて中米を訪れた私は、このとき、自分とは完全に異質の現実と直面することとなった。私は当時23歳で、自分とそう変わらない年齢の女性が自分とは全く異なる人生を歩んでいて、子どもたちをできるだけちゃんと育てることしか考えていないという事実に、ショックを受けたのだ。
ところが3年後、エルサルバドルへの移住を果たした私と再会した彼女たちは、なんと舞台の上に立っていた。あの内気で不安げな女性たちが劇団を結成し、家庭や市場での自身の経験を描く、ささやかな演劇の実験を披露していたのである。私は驚いた。そこにいるのが、かつて出会った人と全く異なる女性たちだったからだ。彼女たちはその頃、プロとして初公演となる劇の準備を進めていた。そこで私は、母親としての実体験を語るこの劇が創作される過程で行われる稽古を、一つひとつ撮影していこうと決心した。
リハーサルを重ねてゆくごとに、幼児期の虐待、10代での妊娠、ジェンダーにもとづく暴力、性的虐待、貧困など、彼女たちの体験してきた恐ろしい出来事の数々を知ることとなった私は、やがて何か本質的な変化が目の前で起こっていることに気づいた。私は、演劇から力を得た女性たちが自らの声を発見するという実験、そのなかで彼女たちが自身を理解し再発見するという実験の立会人となった。そして、暴力的な現実が自分と子どもに対してもたらす影響や、そうした世代間の悪循環と闘い、打破することがこの実験によっていかに可能であるかに彼女たちが気づいてゆく様を、その目で見届けることになったのである。
1987年、スペインのレオンに生まれる。エルサルバドルを拠点とするドキュメンタリー映画作家で、監督・プロデューサーとして映画およびテレビで活動する。2011年にマドリード・カルロス3世大学で視聴覚コミュニケーション専攻を修めた後、カタルーニャ映画視聴覚高等学院(バルセロナ)ドキュメンタリー映画制作コースの修士課程に進学。PBSの「フロントライン」、CCTVの「Americas Now」、BBC Newsなどでテレビドキュメンタリーの番組制作に携わったこともある。2013年にエルサルバドルに移住し、自身の制作会社「La Jaula Abierta」を設立。長編デビュー作である本作は、2019年のサウス・バイ・サウスウェスト映画祭で初披露され、グローバル部門の観客賞を受賞した。