ドラマティック・サイエンス! 〜やまがた科学劇場〜 |
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B program サイエンスの胎動:ドイツ・ウーファ社文化映画選
このプログラムでは、ドイツ・ウーファ社が製作したクルトゥーアフィルム(Kulturfilm―日本では「文化映画」と訳された)と呼ばれる作品群から、1933年から37年までに製作された、科学映画の先駆けともいえる作品の一部を紹介する。
クルトゥーアフィルムとはプロデューサーのニコラス・カウフマンによって製作された学術的・教育的な記録映画の一群であり、海外にも輸出された。我が国では、東和商事が1930年代から配給した作品が、その完成度の高さによって科学映画界に多大な影響を与えることとなった。
とりわけ、『緑の放浪者』における微速度撮影、『生命の神秘』の顕微鏡撮影(監督のひとりであるヘルタ・ユーリッヒは、当時その分野での第一人者だった)などは、それらが今から70年も昔に作られたものとは思えないほどの見事さを持っていることは、一度見て貰えれば納得していただけるだろう。
(加藤孝信)
ウーファとは ドイツの一大映画コンツェルンであったウーファ(UFA―Universum-Film AG「ウニヴェルズム映画株式会社」の頭文字)は、第一次世界大戦中の1917年12月、戦争プロパガンダ映画の製作を目的として創設された。 国営企業として誕生したウーファは1921年に民営化され、フリッツ・ラング(『メトロポリス』〔1926〕)、フリードリッヒ・W・ムルナウ(『最後の人』〔1924〕)、ジョゼフ・フォン・スタンバーグ(『嘆きの天使』〔1930〕)などの映画監督たちに活躍の場を提供した。ウーファが世に送り出した作品はドイツ国内のみならず世界的にも高い評価を獲得、サイレント映画末期からトーキー初期に黄金時代を迎えた。 一方、折からのインフレや製作費の高騰などにより徐々に財政難に陥ったウーファは、1927年3月、後にナチス・ドイツ政権に経済相として入閣することになる、実業家のアルフレート・フーゲンベルクによって引き継がれた。1930年代以降は、徐々にナチの影響下に置かれることになり、宣伝省大臣ヨーゼフ・ゲッベルスの下でナチのプロパガンダ映画にも手を染めることになる。この時期に前後して、かつてウーファを支えてきたユダヤ系・反ナチ系の映画人たちは相次いで国外に移住していった。 第二次大戦後、ウーファは連合国側の管理下に置かれ、国家の分裂と共に東西に引き裂かれた。東側のスタジオは東ドイツ唯一の公式映画製作機関・DEFA(Deutsche Film AG)として存続したが、東西ドイツ統一後に消滅。西側でも何度かウーファを再興しようという動きがあったが、結局ドイツに本社を置くメディア企業・ベルテルスマンにウーファ資産の大部分が売却され、かつてのような勢力を回復するには至っていない。 |
緑の放浪者
Green DriftersGrüne Vagabunden
- ドイツ/1933/日本語ナレーション/モノクロ/35mm/14分
監督:ヴォルフラム・ユングハンス 脚本:ウルリッヒ・シュルツ
撮影:パウル・クリーン
音楽:ハーバート・ヴィント
提供:東京国立近代美術館フィルムセンター
転がり、風に舞い、水に漂う……。あらゆる手段を使って生活の場を広げようとする植物たちの戦略を、微速撮影をはじめとした映画的テクニックを駆使してダイナミックに描く“植物アクション”科学映画。薄く大きな翼状の種が、まるでグライダーのように滑空する映像は必見。
生命の神秘
Mysteries of LifeMysterium des Lebens
- ドイツ/1937/ドイツ語/モノクロ/35mm/14分/日本語字幕版
監督:ウルリッヒ・シュルツ、ヘルタ・ユーリッヒ
音楽:エルンスト・エーリッヒ・ブーダー
提供:東京国立近代美術館フィルムセンター
分裂によって増殖する単細胞生物・ラッパムシに始まり、イモリやウサギなどの高等生物にいたる個体発生のメカニズムを映像化。見事な顕微鏡撮影を駆使して捉えられた、打ち震えるような受精卵の細胞分裂は、“生命のリレー”の魅惑的な美しさを余すところなく我々に見せてくれる。
夜の猛禽
Predators of the NightVom Uhu und anderen Gesichtern der Nacht
ドイツ/1936/日本語ナレーション/モノクロ/35mm/15分
監督:ウルリッヒ・シュルツ、ヴォルフラム・ユングハンス
撮影:ヴァルター・ズーフナー
音楽:ハンス・エーベルト
提供:東京国立近代美術館フィルムセンター
「夜の猛禽」とも呼ばれるフクロウ類の生態を、撮影スタッフのややコミカルな苦労も交えつつ描く。天敵・タカとミミズクの劇的なカットバックや、特徴的なナレーションの使い方が、その後の“動物科学映画”に与えたウーファ作品の影響の大きさを想像させる。
レントゲン線
Roentgen RaysRöntgenstrahlen
- ドイツ/1937/ドイツ語/モノクロ/35mm/18分/日本語字幕版
監督、脚本:マルティン・リクリ 構成:ニコラス・カウフマン
提供:東京国立近代美術館フィルムセンター
1895年に発見されたレントゲン線(X線)は、現在では医学の分野のみならず、産業一般や科学研究において必要不可欠な存在になっている。気体が気管から肺胞に到達する様子や、食べた物が食道を通る様子など、ユーモラスでややグロテスクなX線による動画は、特別に機材を開発するなどして撮影された。
低温
Cold, Colder, and ColdestKalt . . . kälter . . . am kältesten . . . Ein Film von der Erzeugung tiefer Temperaturen
- ドイツ/1937/日本語ナレーション/モノクロ/35mm/12分
監督、脚本:マルティン・リクリ 撮影:クルト・シュタンケ
提供:東京国立近代美術館フィルムセンター
−39℃で凍る水銀の鐘、液体の中で燃える炎、磁石に吸い付く液体酸素など、日頃の常識を越える低温の世界を、わかりやすい例を引いて巧みに映像化。液化した気体に凍り付いて脆くなり、粉々に粉砕される花びらの映像は、その後エンジンオイルのCM等でも使われるなど、いわば映像のクリシェとなっている。