街を見つめる人を見つめる
――ユネスコ創造都市の世界 2025

2017年10月に、山形市は日本で初めて、ユネスコ創造都市ネットワークの映画分野で加盟認定された。YIDFF 2025ではユネスコ創造都市ネットワーク「映画」分野の、山形市を除く25の加盟都市から公募しセレクトした「街を見つめる人を見つめる」をテーマとする7作品を上映。本プログラムは、前回YIDFF 2023に引き続き、今回が二回目の開催となる。また山形の伝統文化を題材にした映像プログラム「映像で山形ルネッサンス」4作品も上映する。(プログラムコーディネーター:中村高寛)
過ぎゆく日
- 2024/14分
監督:ンギマ・ゲル・シェルパ
放牧地で草を刈っている女性二人をカメラは追っていく、ただそれだけの映像である。にも拘わらず瞠目してしまうのは、“日常”を捉えるようとする作り手の視点があるからに他ならない。ドキュメンタリーにおける“日常”とは、モンタージュ(作為)ではなく、カメラを持った作り手の思想によって、浮き上がってくる。
ありふれた献身
- 2021/12分
監督:エヴァ・ジオロ
映像=イメージとは何か? フィルムで撮られた画、そして音の豊かな組み合わせによって、そのテーゼが想起されていく。老子の言葉を手がかりに、“時間”の芸術である映画、そして私たち人類が決して逃れることのできない“循環”、“連鎖”、“物質”など、いくつものメタファーが連鎖し、数珠つなぎになっていく面白さは必見。
内なる家
- 2024/71分
監督:ジョシュア・プレンドヴィル
作家フィオナ・キッドマンが自身の半生を一人語りしていく。あえて家族、友人知人、関係者などは一切登場させずに、フィオナ本人の主観、記憶だけでイメージを喚起させ、彼女の人生の光と影、感情の揺れ、機微を丹念に写し撮っていく作品。自身が著作の一節を朗読するシーンでの、その繊細かつ大胆な言葉遣いに、思わずハッとさせられる。
シエスタ
- 2009/73分
監督:ソフィア・モラ
父を亡くした姉弟のもとに、せわしなく集まってくる葬儀の参列者たち。現実を受け止めきれない二人は、家を抜け出して、街へと向かうも……。ビセンテ・ロペスの街は人影すらなく静寂そのもので、まるでゴーストタウン。あたかたも二人の心象風景のように映し出され、時間だけが儚くも過ぎていく。本プログラム唯一のフィクション作品。
途中下車
- 2023/21分
監督:マリウシュ・ビエルナツキ
ウッチを走る“炊き出しバス”は、ホームレスに温かい食事を提供するために、日夜、活動している。ここでは配膳をおこない、働くのもシェルターで暮らすホームレスたちだ。「ドラマと見まがうようなドキュメンタリー」という形容がふさわしい内容ではあるが、本作の結末はドラマチックではなく、あまりに残酷でドキュメンタリー的である。
こんなにも美しい街
- 2019/8分
監督:マルタ・コホ
女性が目を覚ますと、隣に寝ていたはずの彼氏が(窓外から下をみると)道端で誰かと接吻していた。激昂した女性は、部屋を飛び出して、その場に駆けつけるが誰もいない……。感情赴くまま街を彷徨うと、そこにはいつもとは違う世界があった。女性の主観ともいえる、グロテスクで扇状的な“街の貌”をアニメーションで描き出す。
連続
- 2023/11分
監督:ルナ・マト・シャゲ
色褪せたモノクロの家族写真。そこに写る一人の女性アスセナ・ビシャフロフは、1977年12月、海岸に打ち上げられ遺体として見つかった。何故、死ななければならなかったのか? アルゼンチンの隠された歴史を、残された一枚の家族写真から紐解いていく試み。様々な海の映像が、寄せては返す波の音ともに、記憶の断片を呼び起こしていく。
映像で山形ルネッサンス
再会 〜山形国際ドキュメンタリー映画祭35年目の記録〜
- 2024/24分
監督:長岡宏昭
山形でしか観られない映画がある。コロナ禍が明け、4年振りの通常開催となった「山形国際ドキュメンタリー映画祭2023」。再び世界中の映画ファンが「映画の都・山形」に集う。オンライン開催となった2021年、映画祭の象徴ともいえる夜の社交場「香味庵クラブ」の会場だった老舗漬物店の廃業、そして映画祭の屋台骨である人物の急逝……。前回の通常開催からの4年間は映画祭にとっても試練の多い時間だった。大きな試練を乗り越え、新たなスタートを迎える2023年の映画祭。取材を通しその存在意義や魅力に、そして関わる人の想い・決意に迫る。
羊が紡ぐ記憶 蔵王温泉ジンギスカン
- 2024/13分
監督:布施果歩
「ふるさと」はどんな味がするだろう。ジンギスカン発祥の地の一つとされる山形市蔵王温泉。かつて緬羊飼育が盛んだったこの地で、なぜ羊の肉が食べられるようなったのか。「蔵王温泉ジンギスカン」の味は、令和4年度には文化庁の「100年フード」にも認定されるなど、今もなお世代を超えて受け継がれている。その歴史をたどりながら、ジンギスカンとともに歩んできた人々の想いに迫る。
ひだまり ある愛されスーパーの話
- 2025/11分
監督:長岡宏昭
「げそ天」が起こした奇跡のものがたり。山形市長町にあるスーパーマーケット「エンドー」。山形のソウルフード「げそ天」が話題となり、地域の人はもちろん、県外や海外からもお客さんがやってくる人気スーパーだ。多くの人に愛される理由は「げそ天」だけではない。地域のおばあちゃんたちが井戸端会議を開いていたり、地域の夏祭りを開催したり、こども食堂を開いたり……。まさに地域の「ひだまり」的な存在になっている。街の小さなスーパーに様々な人が集う、その風景から見えてくるものとは? ソウルフード「げそ天」が育む〈地域の宝〉を見つめたドキュメンタリー。
出羽が生み出す文士たち
- 2025/22分
監督:佐藤広一
山形市には「文学」を育む風土がある。著名な作家を多く輩出している山形市。その理由のひとつとして注目されるのが、民間主導で開催されている「山形小説家・ライター講座」の存在だ。1997年からスタートしたこの講座には、作家デビューを志す人はもちろん、「書く」ことの楽しさを経験したい人たちが今でも途切れることなく足を運び、熱気にあふれている。なぜ山形市でそのような講座が根付き、そして今でも文学の担い手を生み出し続けているのか? 山形市の文学にまつわる取り組みを交えながら、講座に関わる人たちへのインタビューを通して探るドキュメンタリー。