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未来への映画便

共催:山形大学人文社会科学部附属映像文化研究所
助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、国際交流基金

[会場]CS 山形市民会館小ホール

戻れない時間のなかで
 映画を見ることは、自分を超えた存在と出会い、驚き、他者に思いを馳せる体験にほかならない。映画からの声、それに対する応答が、いつかどこかで誰かに、特に若い人々に届くことを願って――。YIDFFでは、高校生チームによるドキュ山ユースの活動に加えて、主に大学生や高校生を対象とした鑑賞プログラムやワークショップを継続して開催している。映画祭では3回目を迎える今回のプログラムでは、フランスから映画監督のマリー=クロード・トレユを招聘し彼女のドキュメンタリー作品『昔々、テレビは』とともに、アフガニスタン出身の女性監督セディカ・レザエイによる『ガワスへの帰郷』を上映する。トレユ氏は自身の映画制作活動の一方で、フランスの映画教育機関アトリエ・ヴァランの講師を長く務めてきた。今回上映される『ガワスへの帰郷』は、カブールで行われたそのワークショップで制作され、彼女が自身の作品との組み合わせを考慮して本プログラムのために推薦したものである。2本の作品は、制作された時期も国も異なっているが、伝統的な文化や閉ざされた共同体のなかへテレビやモニターによって映像が介入するという点において共通している。テレビという窓は、それまで隔絶されていた共同体に外部世界の「今」という時間を持ち込み、社会のあり方そのものを静かに、しかし大きく揺さぶる。上映後には鑑賞ワークショップを開催し、新しいメディアと私たちの生きる社会との関係、そしてその変容について参加者とともに考察する(学生は映画上映・ワークショップともに参加無料、要申込み)



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昔々、テレビは
Once Upon a Time, TV
フランス/1985/デジタル(原版:16mm、8mm)/57分
監督:マリー=クロード・トレユ Marie-Claude Treilhou

南仏オード県の小さな村ラバスティード=アン=ヴァル。テレビは、生活や価値観をどのように変えたのか――シンプルな問いに対する村人たちの語りを通して、映画は具体的な変化を拾い上げる。食事の時間や農作業のリズムが変わり、パリの標準語が方言に混じり、生活の中心がニュース番組へと移っていく。伝統的な村の共同生活に対して、テレビが一方的に映し出す、標準化された外部世界。両者の間に生まれる戸惑い、憧れ、ユーモア、そして新たな関係性をキャメラはとらえる。

マリー=クロード・トレユ
トゥールーズ(フランス)生まれ。哲学と美術史の学位を取得後、さまざまな仕事を経験する傍らで、『Cinéma』や『Art Press』などの雑誌に寄稿し、ポール・ヴェッキアリの助手を務める。ポルノ映画館で働いた経験を元に初長編『シモーヌ・バルベス、あるいは淑徳』(1980)を制作。短編『Lourdes, l'hiver』(1982)でジャン・ヴィゴ賞を受賞。ほかに、フランス映画史を代表する女優、ダニエル・ダリュー、ミシュリーヌ・プレール、ポーレット・デュボストらが出演する喜劇『Le Jour des rois』(1991)、パリのアマチュア合唱団が、オーディションや練習、リハーサルなどを通して音楽を完成させていく様子をとらえたえた『合唱ができるまで』(2004、日本公開作品)など、フィクションとドキュメンタリーを横断しながら多くの作品を発表してきた。アトリエ・ヴァランで講師を務め、映画・映像業界の男女平等と多様性を推進する団体「Collectif 50/50」のメンバーとしても活動している。

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ガワスへの帰郷
Back to Ghawas
アフガニスタン/2006/デジタル・ファイル/27分
監督:セディカ・レザエイ Sediqa Rezaei

幼い頃にアフガニスタンを離れ、人生のほとんどを海外で過ごした34歳のエンジニアのジャワドは、33年ぶりに故郷へ帰還する。叔父や叔母が暮らす故郷の村を訪れるが、そこでの生活はまるで時が止まったかのように、昔のままの姿で彼を待っていた。本作は、3か月にわたって2006年にカブールで開催されたAteliers Varan Afghanistanのワークショップで制作された。

セディカ・レザエイ
1978年カブール生まれ。生後5か月でイランに移住し24年間過ごす。2004年に帰国後、国連機関に勤めるが政治腐敗を目の当たりにして辞職。絵画に情熱を注ぐ。監督作として『Brick and Dreams』(2007)、『Survival』(2011)などがある。
アトリエ・ヴァラン(Ateliers Varan)について
1981年にジャン・ルーシュを中心に設立された、パリに拠点を置く映画制作者による教育機関。ドキュメンタリー制作のための実践的なワークショップをフランス国内および世界各地で展開し、ヴェトナムからケニア、セルビア、ジョージア、アフガニスタンに至るまで、さまざまな国で世代を超えたドキュメンタリー映画制作者を育成している。設立以来、800本以上の作品を制作すると同時に、UNESCOへの助言活動やフランス外務省との連携により、国際的な文化交流の一翼も担う。

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〈学生向け無料映画鑑賞〉

 学生の方は、本プログラムの作品を無料で鑑賞することができます。

 無料映画鑑賞をご希望の学生の方は以下のフォームからお申し込みが必要です。
 ※高校生の方は学生証をご提示いただくことで、山形国際ドキュメンタリー映画祭2025の上映作品をすべて無料でご鑑賞いただけます。

[上映日時]
1013日[日]10:00−11:24
[申し込み]
フォームを送信してください 申し込みフォーム
[申し込み締切]
103日[金]

 ※一般の方は、他のプログラムと同様に、チケット購入ないしは映画祭パスにて作品をご覧いただくことができます。(申し込み不要)

 


鑑賞ワークショップ

ドキュメンタリーを「観て、語る」楽しさを体験しませんか?
 今回のワークショップでは、フランスの映画監督マリー=クロード・トレユ氏を特別に招き、彼女の作品を鑑賞します。上映するのは、トレユ氏が監督した『昔々、テレビは』(1985年、フランス)と、彼女がワークショップで指導したアフガニスタン出身の女性監督による『ガワスへの帰郷』(2006年、アフガニスタン)の2作品です。

  製作された時代も国も異なるこの2つの作品は、テレビやモニターといった「映像」が、伝統的な文化や閉ざされたコミュニティに影響を与えていく様子を描いています。約40年前のフランスの村と、約20年前のアフガニスタンの村で、映像がもたらした変化は、メディアが多様化した現代を生きる私たちにどう映るでしょうか?

 上映後には、トレユ監督とともに作品を深掘りするワークショップを開催します。他の参加者と感想を共有し、対話を通じて、映画や、それが描く社会について新たな発見や理解を深めていくためのヒントを各自が見つけていく予定です。それは、大都市と地域社会、あるいは異なる文化や価値観を持つコミュニティ間の差異について、高校や大学で学ぶ視点にもつながるでしょう。

 普段からたくさんの映画を観ている方も、ほとんど観ないという方も大歓迎です。一人で映画祭に参加することにためらいがある方、映画祭のボランティアやスタッフに興味があるけれど一歩踏み出せない方、映画を通じて新しい友人を作りたい方にもおすすめです。まずは作品を観て、感じたことを言葉にすることから始めてみましょう。

[ワークショップ日時]
1013日[日]『昔々、テレビは』『ガワスへの帰郷』上映終了後(12:30頃終了予定)
[申し込み]
フォームを送信してください 申し込みフォーム
[申し込み締切]
103日[金]
[定員]30名
[問い合わせ]
認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭(山形事務局)
phone: 023-666-4480 fax: 023-625-4550 e-mail: info@yidff.jp


これまでの「未来への映画便」上映作品
YIDFF2021:『若き孤独』(2018、監督:クレール・シモン)、『語る建築家』(2011、監督:チョン・ジェウン)、『言語の向こうにあるもの』(2019、監督:ニシノマドカ) *ファシリテーター:土肥悦子(こども映画教室)、土田環(YIDFF)
YIDFF2021 ON SCREEN !:『牛』(2021、監督:アンドレア・アーノルド) *ファシリテーター:中村高寛(映画監督)、土田環
YIDFF2023:『ヘルマン・スローブ 目の見えない子ども2』(1966、監督:ヨハン・ファン・デル・コイケン)、『ベッピー』(1965、監督:ヨハン・ファン・デル・コイケン) *ファシリテーター:クリストフ・ポスティック(リュサス国際ドキュメンタリー映画祭)、ニシノマドカ(映像作家)