1. 社会変革とドキュメンタリー 1960−80年代
「新ラテンアメリカ映画」を模索していた1960年代の映画作家たちは、カメラを携え、混迷する政治的な状況と対峙していく。なかには、行方不明になったり、亡命者として自国を離れ作品を完成させた監督もいた。困難を背負いつつも社会変革への関与を様々な形式で試み、自国の人々の真の顔、声を情熱的に国内外へ訴えようとしていった「第三の映画/サード・シネマ」に代表される作品群、『チリの闘い』、コロンビアで起きたカリウッドで制作された映画、メキシコの学生らによる命がけの記録を上映する。
ティレ・ディエ
Tire Dié- アルゼンチン/1960/スペイン語/モノクロ/35mm/33分
監督:フェルナンド・ビリ、サンタフェ・リトラル国立大学映画研究所の学生
編集:アントニオ・リポル
録音:マリオ・フェシア、レオポルド・オルサリ
製作:エドゥガルド・パリエロ
提供:フェルナンド・マルティン・ペーニャ
アルゼンチン・サンタフェ市の貧困地区の子どもたちは、電車の鉄橋の上に登って命を危険に晒しながら、列車が重たい動きで橋を渡る際、乗客に向かって物乞いをするために走りながら叫ぶ。「ティレ・ディエ(10センターボ投げて!)」と。社会的告発の視点を持つ、アルゼンチン・ドキュメンタリーの代表的作品。
孤独な少年のクロニクル
Chronicle of a Boy AloneCrónica de un niño solo
- アルゼンチン/1965/スペイン語/モノクロ/35mm/79分
監督:レオナルド・ファビオ
脚本:レオナルド・ファビオ、ホルヘ・スハイル・ジュリ
撮影:イグナシオ・ソウト
編集:ヘラルド・リナルディ、アントニオ・リポル
製作:ルイス・デ・ステファノ、イシドロ・ミゲル
提供:INCAA
ひとりの子どもの少年時代と彼が受けた差別が、1960年代のアルゼンチンについてのひとつの証言となってくる。子どもの無邪気さは、少年院に入れられ罰せられたときに変容を遂げる。彼は脱出に成功し、住んでいた地域に戻っていく。孤独にさいなまれた少年は、幼なじみに友情を見出し、新たな感情を抱く。無邪気さを失うことは、夢から離れ、すべてを圧倒する現実に立ち向かうことを意味する。
燃えたぎる時
The Hour of FurnacesLa Hora de los Hornos
- アルゼンチン/1968/スペイン語/モノクロ/35mm/260分
監督、脚本:オクタビオ・ヘティノ、フェルナンド・ソラナス
撮影:フアン・カルロス・デサンソ、フェルナンド・ソラナス
編集:フアン・カルロス・マシアス、アントニオ・リポル、ノルマ・トラド
録音:オクタビオ・ヘティノ、アベラルド・クッシュニル、アニバル・リベンソン
製作:エドゥガルド・パリエロ、フェルナンド・ソラナス
提供:INCAA
革命的、政治的、かつ論争的な映画。アルゼンチンの経済、文化は依存的であるという考えに立ち、それをどのように克服するかについての指針をさし示す。本作の監督、オクタビオ・ヘティノ、フェルナンド・ソラナスは、1960年代後半からのアルゼンチンの映画運動「グルーポ・シネ・リベラシオン」を牽引し、1969年、「第三の映画に向かって」を宣言する。
第一部 新植民地主義と暴力
アルゼンチンの歴史と現在、日常的に存在する暴力、この暴力に対抗する道を、13章により紹介。チェ・ゲバラと、ラテンアメリカ解放闘争に倒れたすべての人々に捧げられている。
第二部 解放への行動
前半の「ペロン主義の時代」(1945−55)は10のパートに分かれており、続く「抵抗の時代」(1955−66)は「暴力の10年間」と呼んだアルゼンチン人民の闘争についての叙述となっている。
第三部 暴力と解放
労働組合のリーダーへのインタビューで構成され、この解放闘争のなかから生まれた〈新しい人間〉に捧げられている。
メキシコ:凍結した革命
Mexico: The Frozen RevolutionMéxico, la revolución congelada
- アルゼンチン/1973/スペイン語/カラー/Blu-ray(原版:16mm)/65分
監督、脚本:ライムンド・グレイサー
撮影:ウンベルト・リオス
録音:フアナ・サピレ
提供:INCAA
1910年代のアーカイブのほか、農民や政治家、知識人、中産階級、労働組合員へのインタビューを素材にしたドキュメンタリー。アルゼンチンの映画作家グレイサーがメキシコへ旅して制作した。メキシコ革命の歴史的背景のなかで、メキシコの社会的、政治的な現実を分析し、明らかにする。チアパスの先住民の一家族の生活。先住民の宗教的儀式や耕作、教え、先住民の言語とスペイン語で教える学校などが描かれ、やがて観客は1968年のトラテロルコ広場での大虐殺を目撃する。
チリの闘い ― 武器なき民の闘争
The Battle of Chile--The Struggle of an Unarmed PeopleLa batalla de Chile--La luncha de un pueblo sin armas
- チリ、キューバ、フランス/1975−78/スペイン語/モノクロ/ Digital BETACAM(原版:16mm)/263分
監督、脚本:パトリシオ・グスマン
助監督:ホセ・バルトロメ
撮影:ホルヘ・ミューレル・シルバ
編集:ペドロ・チャスケル
録音:ベルナルド・メンス
提供:ICARUS Films
パトリシオ・グスマンによるチリ・ドキュメンタリー映画の金字塔的作品。グスマンは、チリの政治的緊張とアジェンデ政権の終焉を記録し、1973年のクーデターを契機にフランスに亡命。クリス・マルケルやキューバ映画芸術産業庁(ICAIC)の支援を得てこの映画を完成させた。
第一部(1975年) ブルジョアジーの暴動
1973年3月のチリ議会選において、左派が与党となったことにより、右翼の過激な暴動が始まる。アジェンデの社会主義打破のため、右翼を中心とした暴力的な活動が、政府を弱体化させ、危機的状況に追い込んでいく。
第二部(1976年) 反乱
1973年6月29日、軍は大統領官邸を攻撃。アジェンデは抵抗しクーデター未遂事件として終わるが、政権の崩壊は時間の問題だった。9月11日、チリ国民に向けたラジオメッセージを最後にアジェンデは自殺、軍部によるクーデターが成立する。
第三部(1978年) 民衆の力
労働者階級の人々で構成された“民衆の力”と呼ばれる組織は、食料生産などを通し闇市場に対抗。工場や農場を経営し、社会的組織を営んでいた。反アジェンデ政権と右翼に対抗し、ソビエト型の社会主義を目指す、チリの民衆の姿の記録。
叫び
The ShoutEl grito
- メキシコ/1968/スペイン語/カラー、モノクロ/16mm/101分
監督:レオバルド・ロペス・アレチェ
脚本:オリアナ・ファジャシ
撮影:レオバルド・ロペス・アレチェ、ロベルト・サンチェス、ホセ・ロビロサ、アルフレッド・ジョスコヴィッツ、フランシスコ・ボホルケス、ホルヘ・デ・ラ・ロサ、レオン・チャベス、フランシスコ・ガイタン、ラウル・カムフェル、ハイメ・ポンセ、フェデリコ・ビジェガス、アルトゥロ・デ・ラ・ロサ、カルロス・クエンカ、ギジェルモ・ディアス・パラフォックス、フェルナンド・ラドロン・デ・ゲバラ、フアン・モラ、セルヒオ・バルデス、フェデリコ・ウェインガルトショフェール
編集:フアン・ラモン・アウパルト
録音:ロドルフォ・サンチェス・アルバラド
音楽:オスカル・チャベス
製作:CUEC UNAM
提供:Filmoteca de la UNAM
1968年にメキシコシティで起きた学生運動の目撃証言的作品でありながら、実験的なルポルタージュ。当時、メキシコ国立自治大学(UNAM)映画研究センターの学生だった監督と同級生ら17名が16mmカメラを廻し、同年7月から、メキシコ・オリンピック開幕10日前の10月2日に起きたトラテロルコの虐殺までをコラージュした。
聞いてよ、見てよ
Listen, LookOiga Vea
- コロンビア/1972/スペイン語/モノクロ/Blu-ray(原版:16mm)/27分
監督、脚本:ルイス・オスピナ、カルロス・マヨロ
撮影:カルロス・マヨロ
編集、録音:ルイス・オスピナ
音楽:リチエ・ライ、ボビー・クルス
製作:ルイス・オスピナ、カルロス・マヨロ、シウダ・ソラール
提供:ルイス・オスピナ
1970−80年代、コロンビアのカリにおいて「カリウッド」と呼ばれる映画活動を行った、ルイス・オスピナとカルロス・マヨロの共同監督作品。1971年、4年に一度開催される南北アメリカ大陸のスポーツの祭典、第6回パンアメリカン競技大会に湧くカリ。巨額の費用が投じられたメイン会場の外で、カメラは、高い入場料のためイベントに参加できない人々を鮮明に映し出す。
貧しさを吸いとる者たち
The Vampires of PovertyAgarrando pueblo
- コロンビア/1978/スペイン語/カラー、モノクロ/Blu-ray(原版:16mm)/28分
監督、脚本、製作:ルイス・オスピナ、カルロス・マヨロ
撮影:フェルナンド・ベレス、エドゥアルド・カルバハル
撮影補:ジャック・マルシャル、オスワルド・ロペス
編集、録音、提供:ルイス・オスピナ
ドキュメンタリースタイルを模倣した「モキュメンタリー」の手法を用い、コロンビアに取材にやってきては、物乞いやストリートチルドレンなど貧困層の映像を欧米の目線で撮る「貧困ポルノ」を風刺する。
ローシャの飛礫(つぶて)
Stones in the SkyRocha que voa
- ブラジル/2002/ポルトガル語、スペイン語/カラー/Blu-ray/94分
監督、提供:エリック・ローシャ
脚本、編集:エリック・ローシャ、ブルーノ・ヴァスコンセロス
撮影:ミゲル・ヴァシリスキス
録音:ブルーノ・ヴァスコンセロス
グラウベル・ローシャが1971−72年に亡命先のキューバで撮影したフッテージにインタビュー音声や当時を知る映画人たちの声を重ねて構成されたローシャ/飛礫の軌跡を息子である監督が追う。サンティアゴ・アルバレス、ウンベルト・ソラスなどの姿も交え、1960−70年代の新ラテンアメリカ映画運動の中心であったブラジルのシネマ・ノーヴォと、キューバの革命映画がいかに密接な関係を築いていたのかを伺わせる。
死を刻んだ男 ― 20年後
Twenty Years Later: A Man Marked to DieCabra Marcado para Morrer