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J-Pitch セミナー
ドキュメンタリー、 国際展開の諸問題


日本映画の国際共同製作を推進するJ-Pitch事務局が山形国際ドキュメンタリー映画祭2009でセミナーを主催します。ドキュメンタリーの国際展開を考える上でタイムリーな諸テーマについてゲストが講演。今後、ドキュメンタリー映画を通した世界への発信を実現するための可能性を提案します。

日時: 2009年10月9日[金]、11日[日]、13日[火]
会場: 山形市民会館 小ホール
参加費: 無料
主催: 経済産業省、J-Pitch事務局/ユニジャパン
協力: 山形国際ドキュメンタリー映画祭

J-Pitchとは?

日本のプロデューサーによる企画の国際共同製作の実現を目的として、経済産業省、ユニジャパンが主催となり発足した事業で、(1)国際企画マーケットで、海外のプロデューサーとのネットワーキングの場の提供、(2)日本国内で、国内外のアドバイザーによるワークショップを開催し企画開発のサポート、(3)広くプロデューサーを集めた、法務やファイナンシングといった国際共同製作の基礎を伝えるセミナーの開催、等の活動を行っています。

http://j-pitch.jp/

 


DAY 1 それでも合作はおもしろい

10月9日[金]10:00−12:00

- 小谷亮太(NHKプロデューサー)

大学時代のフィリピン留学を経て、1986年NHKに入局。ニュースセンターで国際ニュースを担当、「クローズアップ現代」、香港支局など主に報道の仕事をする。衛星放送局に入り、「世界ふれあい街歩き」「新的中国人」「東京モダン」など、ハイビジョンチャンネルならではの斬新な企画でテレビ未踏の地を開拓する敏腕プロデューサー。

資金を提供して「国際共同制作」と称していた時代は今や昔。今回のYIDFFでは小谷亮太氏プロデュースの合作ドキュメンタリーが3本も上映される。年間10本ものドキュメンタリー作品を世に出すため、小谷氏は世界各地のドキュメンタリー・ピッチに参加し、企画を共同開発している。インターナショナル・コンペティション上映作『ナオキ』(監督:ショーン・マカリスター)を例に、日本の企画を外国の監督と共に制作する苦労と、それでもやりたいと思わせる国を越えてのコラボレーションの喜びについて語る。

●関連作品
ナオキ
モンキーマンの街角
ハルビン螺旋階段

 



DAY 2 映画を訳す

10月11日[日]10:00−12:00

- 阿部マーク・ノーネス(ミシガン大学教授)

ミシガン大学でアジア映画を教え、特に日本のドキュメンタリー映画論を専門とする。『Cinema Babel: Translating Global Cinema』著者。山形国際ドキュメンタリー映画祭では過去に「日米映画戦」(1991)などのプログラムコーディネーターを務めた。他の著作に『Forest of Pressure: Ogawa Shinsuke and Postwar Japanese Documentary』、『Japanese Documentary Film: The Meiji Era through Hiroshima』。日本映像文化のウェブサイト Kinema Club とメーリングリスト Kinejapanを主宰。『1000年刻みの日時計 ― 牧野村物語』('86、小川紳介監督)や『まひるのほし』('98、佐藤真監督)などの英語字幕翻訳を手がけている。

自国外で紹介されて、初めて作品が承認されたと感じる映画作家は少なくない。このような越境配給や国際共同製作は、通訳者・翻訳者の存在があって初めて可能になる。通訳や字幕翻訳、吹き替えを通して、訳者は非公認の共同作者――影の監督――となる。しかし訳者の決定的で創造的なその仕事が、作品に多大な影響を及ぼしていることは、多くの場合無視されている(報酬も不十分である)。気鋭の日本映画研究者が、国際共同製作、通訳、字幕作りについて歴史的な例を引きながら、映画をめぐる言語の移し変えの機微を語る。強烈な新潟弁をどのように(暴力的に)訳すのか、『阿賀の記憶』(佐藤真監督)の大胆な英語字幕がひとつのケーススタディとなる。

 


関連作品
YIDFF 2009 オープニング上映

阿賀の記憶

Memories of Agano

- 日本/2004/日本語/カラー/16mm/55分/英語字幕版

監督:佐藤真
撮影:小林茂
編集:秦岳志
録音、音構成:菊池信之
音楽:経麻朗
製作:矢田部吉彦
製作会社、配給:カサマフィルム
共同配給:Bluebuck Films、P.O.P. ネットワークス
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名作『阿賀に生きる』から10年、撮影隊は新潟の阿賀野川のほとりに暮らす人々を再訪する。今は荒れてしまった田や主を失った囲炉裏を見つめ、人々の痕跡に記憶を重ねていく。佐藤真監督は世界の映画作家と観客を触発し続ける映画6本と書籍を残し、2007年9月4日に逝去。


- 佐藤真(1957−2007)

1957年、青森生まれ。学生時代に訪れた水俣でドキュメンタ リー映画と出会い、『無辜なる海』(香取直孝監督)の制作に参加。初監督作品『阿賀に生きる』 ('92)は新潟にスタッフ7人で3年間暮らし、YIDFF '91でラフカットの上映を経て完成。他の作品に『まひるのほし』('98)、 『SELF AND OTHERS』(2000)、『花子』(2001)、 『エドワード・サイード OUT OF PLACE』(2005)。映画美学校主任講師、 京都造形芸術大学教授を務め、『ドキュメンタリー映画の地平』(2001)、『まどろみのロンドン』(2004)など著作多数。

 



DAY 3 被写体をめぐる法制と慣習

10月13日[火]10:00−12:00

- カルメン・コボス(映画プロデューサー、コボス・フィルムズ)

南スペインで生まれ育ち、ソーシャルワークの勉強を経て1991年に英国に移住。BBCや制作会社で働いた後、1997年にオランダに移り、2001年に自身の会社、コボス・フィルムズを設立。エディ・ホニグマン(『Forever』『忘却』)やジョン・アペルなどの監督たちによるドキュメンタリーを国際共同制作で発表し、好評を博す。近年はアート系劇映画のプロデュースも手がける。EDN(ヨーロッパ・ドキュメンタリー・ネットワーク)でゲスト講師としても活躍。



- 山上徹二郎(映画プロデューサー、株式会社シグロ代表取締役)

1986年、シグロを設立、『まひるのほし』('98、 佐藤真監督)、『ノーム・チョムスキー9.11』(2002、ジャン・ユンカーマン監督)、『沈黙を破る』(2009、土井敏邦監督)など60作品の記録映画を自主製作する。'92年に劇映画『橋のない川』(東陽一監督)の製作を手掛け、数多くの賞を受賞。続く『絵の中のぼくの村』('96、東陽一監督)ではプロデューサーとして藤本賞特別賞を受賞した他、第46回ベルリン国際映画祭銀熊賞、第23回ゲント・フランダース国際映画祭グランプリ、アミアン国際映画祭グランプリ他、数多くの賞を受賞する。『ハッシュ!』(2001、橋口亮輔監督)はカンヌ国際映画祭監督週間招待、『松ヶ根乱射事件』(2006、山下敦弘監督)、『ぐるりのこと。』(2008、橋口亮輔監督)など劇映画も多数製作する。『靖国YASUKUNI』の協力プロデューサー。

近年、日本の制作者が外国で撮影する、あるいはその逆の例が数多く見られる。撮影の現場における被写体との関係性の結び方、肖像権のありようや撮影許可の慣例は国や文化によってどのように異なるだろう。誠意をもって関係性を築くことが前提であっても、どのような誤解や行き違いがありうるのか、国際的な撮影と共同製作の経験豊富なヨーロッパと日本のプロデューサーに実例に基づいて聞く。近年の話題作としては、上映をめぐって論争となった『靖国YASUKUNI』(李纓監督)が参考となる。

 


関連作品
靖国YASUKUNI

Yasukuni

日本/2007/日本語/カラー/35mm(1:1.85)/123分/英語字幕版

監督:李纓
撮影:
堀田泰寛、李纓
編集:大重裕二、李纓
助監督:中村高寛
製作:張雲暉(チャン・ユンフイ)、 張会軍(チャン・フイジュン)、胡雲(フー・ユン)
製作会社:龍影、北京電影学院 青年電影制片廠、北京中坤影視制作有限公司
配給:ナインエンタテインメント

- 中国人監督李纓が、戦没者を弔う靖国神社を描く。A級戦犯や台湾や朝鮮半島から徴兵された軍属も合祀していることなどをめぐり、靖国は近年政治的・外交的な論争となっていた。2008年の日本初公開時、右翼活動家の妨害を恐れた東京の劇場が公開を直前に中止し、かえってそのメディア効果が全国の独立系映画館での公開に結びついた。後に韓国と米国で一般劇場公開され成功を収めた。


- 李纓(リー・イン)

1963年、中国生まれ。1984年に中国中央テレビ(CCTV)でドキュメンタリーの演出を始める。1989年、映像人類学の研究のため来日。1993年にテレビ番組と映画の製作会社、龍影を共同設立。以来、日中両国で映画製作を続ける。 作品に『2H』(1999, YIDFF '99)、『飛飛』(2001)、『味』(2003)、 『Mona Lisa』(2005)がある。