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審査員
川上皓市


-●審査員のことば

 今から43年ほど前になりますが、私は、小川プロダクションの『三里塚・岩山に鉄塔が出来た』(1972年)と『三里塚・辺田部落』(1973年)の撮影のため、撮影部のチーフ助手として約2年間、辺田部落で合宿生活をしていました。その2年間は、撮影だけではなく、田植え、稲刈り、大根の収穫などの援農もしながらの生活でした。それは、撮影する側とされる側というだけの関係ではなく、辺田部落の人たちと、より濃密な人間関係をつくるということだったと思います。そして同時に、小川紳介監督の話を聞く日々でもありました。

 映画の技術の話ではなく、そこに生きている人間のこと、村の歴史や祭のこと、農作物のことなどを毎晩毎晩話すのです。いわゆる「小川学校」というものです。そういう話の中から、映画『三里塚・辺田部落』での、キャメラマンがキャメラのスイッチを入れたらフィルムがアウトするまでカットしないといった方法が決定していったように思います。

 その後、小川プロダクションは山形に移ったわけですが、私は劇映画の世界に進んだので、山形には参加しませんでした。今回、山形国際ドキュメンタリー映画祭のアジア千波万波の審査員を依頼されたとき、私に審査員が務まるかどうか心配がありました。しかし、アジアの18本もの作品を見ることができる今回の機会は滅多にないことなので、楽しみでもあります。

 小川プロダクションで過ごした日々や、小川紳介監督のこと、小川プロのスタッフたちのことを思い出しながら、一本一本、見ていこうと思っています。


川上皓市

撮影監督。日本映画大学教授、日本映画撮影監督協会副理事長。三里塚時代の小川プロに参加。『映画作りとむらへの道』(福田克彦監督、1973)などの撮影を経て、『サード』(東陽一監督、1978)で劇映画の撮影監督デビュー。『四季・奈津子』(東陽一監督、1980)で芸術選奨文部大臣新人賞、三浦賞(日本映画撮影監督協会新人賞)などを受賞。『橋のない川』(東陽一監督、1992)と『紙屋悦子の青春』(黒木和雄監督、2006)で 毎日映画コンクール撮影賞を受賞。新作は『この国の空』(荒井晴彦監督、2015)。



紙屋悦子の青春

Itami 2009 Early Summer--Late Autumn

日本/2006/日本語/カラー/35mm/111分

監督:黒木和雄
脚本:黒木和雄、山田英樹 原作:松田正隆
撮影:川上皓市 編集:奥原好幸
録音:久保田幸雄 
美術:木村威夫 音楽:松村禎三
出演:原田知世、永瀬正敏、松岡俊介、本上まなみ、小林薫
製作会社:バンダイビジュアル、アドギア、テレビ朝日、ワコー、パル企画
配給:パル企画

敗戦間近の鹿児島、海軍航空隊の2人の若者、明石と永与が、紙屋悦子を訪ねてくる。明石に密かな思いを寄せていた悦子は、彼が強く薦める親友の永与との見合いに複雑な気持ちを抱くが、永与の真摯な態度に好感を持つ。間もなく明石は特攻隊で出撃することになり、手紙を託して帰らぬ人となった。残された2人は、悲しみを胸に、ともに人生を歩むことを決意する。劇作家松田正隆が自身の母親をモデルに描いた戯曲を黒木和雄監督が映画化、監督の遺作となった。