受賞作品 審査員コメント
インターナショナル・コンペティション
- 審査員:カレル・ヴァヘック(審査員長)、ヌリット・アヴィヴ、ガリン・ヌグロホ、呉文光(ウー・ウェンガン)、吉増剛造
総評
今回、さまざまな背景と国から集ったこの国際的な審査員たちは、実に多彩な映画作品のラインアップと取り組みました。討議は7時間つづきました。流血事態にはなりませんでした。未来の世界もそのようであることを希望します。
●ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)
『包囲:デモクラシーとネオリベラリズムの罠』-
カナダ/2008/フランス語、英語/モノクロ/ビデオ/160分
監督:リシャール・ブルイエット
大賞は、知的な編集を通して幾つもの観念を集積した、この勇気ある映画に授与されます。対象も事件もなく、ただ、思考する人間が描かれるばかりです。イデオロギーの時代が終わり、新しい多面的な世界に期待するこの時代において、考えることを祝福する作品です。
●山形市長賞(最優秀賞)
『忘却』- オランダ、ドイツ/2008/スペイン語/カラー/ビデオ/93分
監督:エディ・ホニグマン
エディ・ホニグマンさんの『忘却』が、当山形国際ドキュメンタリー映画祭の市長賞を獲得されましたことは、特筆されるべきことでした。南米ペルーの首都リマのレストランのバーテンダー氏、記憶力をつけるためにカエルのジュースを口にする母と娘。……それは、じつに繊細で洗練された仕草で、エディ・ホニグマンさんは、本当の庶民の心の芯を、あるいは、見えざる生成しつつあるものの芯をわたくしたちに手渡してくれました。“忘れられようとすること”、カラーフィルムに降りつもる塵か埃を、スクリーンに映しだして、わたくしたちのひとみに届けてくださった、類稀なるこの映画作家。――あえて「奇跡的な映画作家」と呼んでみたい。エディ・ホニグマンさんに、みなさんとともにこうしてあたらしく生まれたものへの感謝と敬意を、捧げたいと思います。エディ・ホニグマンさん、ありがとう。
●優秀賞
『Z32』- イスラエル、フランス/2008/ヘブライ語/カラー/35mm/85分
監督:アヴィ・モグラビ監督が真相を探索する勇気を持ち、隠された真相を探索する洞察力に満ちた方法を選び取ったことを評価します。
●優秀賞
『要塞』- スイス/2008/フランス語ほか/カラー/35mm/105分
監督:フェルナン・メルガル監督は現場をとらえる確かな位置を選び出し、人間の運命が決定されるその瞬間に冷静かつ共感に満ちた視線を投げかけました。
●特別賞
『ナオキ』- イギリス、日本/2009/英語、日本語/カラー/ビデオ/110分
監督:ショーン・マカリスターこの映画は楽しめる手法を使いながら、日本の経済的・社会的状況のただなかにある人々の鬱屈した心理、孤独、そしてコミュニケーションの重要性について、独自の視点を示すことに成功しました。
アジア千波万波
- 審査員:シャブナム・ヴィルマニ、大木裕之
●小川紳介賞
『アメリカ通り』- 韓国/2008/韓国語、英語/カラー/ビデオ/90分
監督:キム・ドンリョン『アメリカ通り』は、彼女たちの人生の痛みと孤独をひたむきに、そして本能的に描いています。さらにこの作品は、登場人物たちの精神が持つ勇気と、立ち直る力をあたたかい連帯感を通して見せています。詩的で感動的な映像芸術を駆使し、彼女たちの、叶わないと分かっていても愛を追い求める姿を映し出しました。
●奨励賞
『ビラル』- インド/2008/ベンガル語/カラー/ビデオ/88分
監督:ソーラヴ・サーランギ『ビラル』は、コルカタに住むムスリムの子どもと盲目の両親、周囲の人々の生活を鮮やかにそして親密に描くことで、不快感と共感を呼び起こします。力強い、確かな映像技術を持ち合わせ、あたたかいまなざしでその世界を深く見つめています。
●奨励賞
『されど、レバノン』- レバノン/2008/アラビア語、フランス語/カラー/ビデオ/58分
監督:エリアーン・ラヘブ『されど、レバノン』は、危機感をもって現実を問いかける精神に溢れています。勇気と誠実さをもって監督は自分の国、コミュニティ、家族、そして自分自身をも徹底的に追求し、個人と政治の強力な繋がりを織りなした作品を作り出しました。
●特別賞
『ハルビン螺旋階段』- 日本/2008/中国語/カラー/ビデオ/109分
監督:季丹(ジ・ダン)『ハルビン螺旋階段』は、都市社会のプレッシャーのなかで生きる、二家族の緊張感とニュアンスに溢れた考察です。この作品は、静かな絶望のスパイラルに吸い込まれるような中年の息苦しさと、目の前に立ちはだかる挫折を巧みにさらけ出しました。
●特別賞
『細毛家の宇宙』- 中国/2009/中国語/カラー/ビデオ/76分
監督:毛晨雨(マオ・チェンユ)この作品には、強力なアイディアの片鱗が見えます。映画製作を通じて、コミュニティの伝統を掘り起こしながら、常にある現在に再びそれを取り込み、コミュニティの記憶を呼び起こそうと試みています。
市民賞
コミュニティシネマ賞