今年の映画祭
第二次世界大戦終結から60年経った2005年、その間世界各地で戦争は続き、21世紀に入ってますます混迷を深めている。1947年の国連決議で分割されたパレスティナの境界線をたどるインターナショナル・コンペティションの『ルート181』は、パレスティナとイスラエル出身のふたりの監督により、現在も続くパレスティナの問題を照射する。インドの宗教対立を追う『ファイナル・ソルーション』、祖国カンボジアに向き合い続ける『アンコールの人々』なども、それぞれの国内問題に留まるものではない。イラク戦争に取材した作品はオーストラリアの『イラク ― ヤシの影で』に加え、日本の『Little Birds ―イラク 戦火の家族たち―』が「ニュー・ドックス・ジャパン」で上映される。
前回9時間を超える作品で大賞を獲得した中国ドキュメンタリーの力は今年も健在だ。インターナショナル・コンペティションで『水没の前に』が上映される他、アジア千波万波でも5本上映されるが、その秘密が特集のひとつ「雲南映像フォーラム」で明かされるかもしれない。
日本における在日韓国・朝鮮人の存在も、大戦からというよりもそれ以前の日本の韓国併合前後からの歴史に密接に関わっている。今年の特集「日本に生きるということ――境界からの視線」は、100年の歴史の中に様々な形で日本映画に関わった在日朝鮮人の足跡を垣間見、また在日作家たちの作品をたどるとともに、他のアジアからの人々と日本との関わりも視野に入れ、日本のあり方を問う。今年中国で発掘された『家なき天使』や北朝鮮の映画などは、映画ファンにとっても見逃せないものとなるだろう。
さらに特集では、台湾大震災の後に被災者たちに寄り添って撮り続けてきた映像グループ・全景の作品がまとめて上映されるほか、日本で盛んに作られている一人称ドキュメンタリーが、スイス作品との比較で考察される。日本ドキュメンタリーの特集「ニュー・ドックス・ジャパン」にも、戦後60年が色濃く反映されている作品が多い。
そのなかで、YIDFF '99に大賞を受賞した『不在の心象』のヘルマン・クラル監督が、キューバの音楽家たちを撮ったフィクション・ドキュメンタリー『ミュージック・クバーナ』を上映できることは大きな喜びであり楽しみでもある。
今年も、過去を見つめ、世界の現実を見ながら、生きた作品を見、作家たち、観客たちと、映画祭を共有していきたい。
矢野和之