イントロダクション
山形市は、東京から350kmほど北上した場所に位置する人口約25万人の都市です。
この街で映画祭が始まったのは今から16年前の1989年(平成元年)、山形市が市となって100年目の節目を迎えた年の記念事業のひとつでした。
その後、1年おきに開催され今年で9回目を迎えた映画祭ですが、創設にあたっては故小川紳介監督の様々な尽力がありました。特にアジアの若手作家たちを映画祭を通じて紹介し、優れた作品を世に送り出そうとした意思は今も受け継がれ、映画祭期間中には数多くの日本を含むアジアのドキュメンタリー作品がいくつもの会場で上映され、その中から世界に羽ばたく作品が生まれています。
また、世界中から集まった長編ドキュメンタリー作品は、ほとんどが日本初公開の作品ばかりで、語り尽くせぬ魅力に満ち、日常のメディアでは接することの少ない出来事や、取り上げられなかったテーマは新たな想像力を掻き立てます。この他にも映像史の空白を埋める作品の上映や劇映画とドキュメンタリー映画をからませた上映などを通して、固定観念で語られがちなドキュメンタリー映画の裾野を拡げてきました。
映画祭では作品を堪能するばかりでなく、人と人との交流が大きな魅力です。山形市民をはじめ、全国からそして世界各地から集まった人々が会場で、街角で、そして交流の場「香味庵クラブ」で語り合うことは、親睦を図り情報を交換することに留まらず異文化を理解し、草の根の国際交流を促進することにも繋がります。
同時に本映画祭を支えている多くのボランティア・スタッフも“人”を語る上では欠かせない存在です。17年前、自分たちで県内にネットワークを作り、映画祭の準備を応援したことがきっかけになって、その後も運営上の重要な部分を担う存在となりました。今年もたくさんのボランティア・スタッフが街を走り回ります。1本の映画から、未知の友との出会いから、豊かで奥行きのある“映画祭”の魅力を感じていただければと思います。
宮沢啓