最初の54年間 ― 軍事占領の簡易マニュアル
The First 54 Years--An Abbreviated Manual for Military Occupation-
フランス、フィンランド、イスラエル、ドイツ/2021/ヘブライ語、英語/カラー、モノクロ/DCP/110分
監督、脚本、編集:アヴィ・モグラビ
撮影:フィリップ・ベライシュ、トゥリク・ギャロン
録音:ヨーナス・ユララ、ドミニク・ヴィエイヤール
製作:カミーユ・レムレ、セルジュ・ラルー、アニー・オハイヨン=デケル
製作会社:Les Films d'Ici
共同製作:Arte France、24images、Citizen Jane Productions、アヴィ・モグラビ、ma.ja.de. Filmproduktions
配給:The Party Film Sales
1967年にイスラエルがパレスティナのガザとヨルダン川西岸を軍事占領してから54年。本作は、監督が理事を務めるNGO「Breaking the Silence」が元イスラエル兵の証言を集めそれらを元に構成した、占領戦略マニュアルである。徴兵制をとるイスラエルでは、ユダヤ系国民の多くが占領行為に直接的または間接的に関わっている。安全保障の名の下に、いかに戦略的に個人が暴力に加担させられるのか、そのからくりを明らかにし、軍事的論理がはびこる日常に警鐘を鳴らす。(KH)
【監督のことば】近代史上おそらく最長となるこの占領の物語を語るにあたって、私は当初、兵士たちの証言を内的論理のつながりに沿って並べ索引化すれば十分だろうと思い込んでいた。占領のもつ意味――占領軍の人間であるとはどういうことか、占領を続ければどんな事態を招くのか、占領地のパレスティナ人はどのような体制下で生きてゆくことになるのか――は、証言が集成されることでおのずと浮かび上がってくるだろう、と。兵士たちが自らの行状について後から振り返って考えたことよりもむしろそこで行われたこと、彼らがそれらについて語るそのままの行為や指示やメカニズムに集中しよう、という点については、自分としてははじめから明らかなことだった。
しかし編集作業が進むにつれ気づいたのだ。イスラエル国家発足以来73年の歴史のなかで最大のこの巨大事業を扱うには、そのより深いところに潜む意味を包含するような枠組みを開発しなければならない、と。
自身のプロジェクトを完遂するには、証言を強力な軸としつつもそれをなんらかのロジックと接続し、なぜ占領がここまで長く続き近い将来に終わることも期待できそうにないのかについての理解が深まるようにしなければならない――私にはそれがはっきりとわかっていた。
こうして生まれたのが、この映画を軍事占領の簡易マニュアルに見立てるというアイデアだ。いわば軍事占領を実行するための取扱説明書のようなものだが、そこで取り上げられるのはそうした処置を「どうやるか」だけではない。これは、あれやこれやのメカニズムがどんな全体の目的に資するのか、占領地の住民に特定の法体系やルールを押しつけるときに占領軍側の人間がもつ動機とは何かといった、「なぜ」をも扱う映画なのだ。
1956年テルアヴィヴ生まれのイスラエル人映画作家・ビデオアーティスト。現在もテルアヴィヴに在住し制作を続け、その実験精神と映画言語刷新への寄与もさることながら、中東地域における社会的・文化的・政治的正義への揺るぎなきコミットメントでも知られている。主な作品は『ハッピー・バースデー、Mr.モグラビ』(1999、YIDFF '99優秀賞)、『August(8月、爆発の前)』(2002、ベルリン国際映画祭上映作品)、『Avenge But One of My Two Eyes(二つの目のうち片方のために)』(2005、カンヌ国際映画祭上映作品)、『Z32』(2008、YIDFF 2009優秀賞)、『庭園に入れば』(2012、YIDFF 2013)、『Between Fences』(2016)など。