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私を見守って

Watch Over Me

- スイス、ドイツ、インド/2021/ヒンディー語/モノクロ/DCP/92分

監督、脚本:ファリーダ・パチャ
撮影:ルッツ・コナーマン
編集:カタリーナ・フィードラー
録音:プラティク・ビスヴァス
音響:フロリアン・アイデンベンツ
音楽:Dürbeck & Dohmen
カラーグレーディング、VFX:レネ・ダ・ロルド
製作:ルッツ・コナーマン、ハンス・ロベルト・アイゼンハウアー、ファリーダ・パチャ
製作会社、提供:Leafbird Films

インドではまだ広く認知されていない在宅での緩和ケアに勤しむ医師、看護師、カウンセラーの女性3人組。病院機構から独立し、助けを求める電話に応じてニューデリー中を駆けめぐる。言葉や仕草で苦痛を訴える患者の声に耳を傾け、大切な存在が目の前で日々衰弱してゆく現実を心穏やかに受け止められるよう家族と粘り強く対話を重ねる彼女たちの真摯な眼差しを、カメラは至近距離から捉える。やがて訪れる喪失を前に家族で過ごすかけがえのない時間を描いたこの映画は、モノクロームのやわらかな光に包まれている。(ET)



【監督のことば】アメリカの映画学校を修了してインドの故郷へと戻ると、そこには病に伏せる両親の世話が待ち構えていた。その後の6年間は、いま振り返ると私の人生でもっともつらく心に傷を残した時期だったけれど、それでもその時間があったことで、大いなる見識を得ることにもなったとは確実に言える。そこには苦しみとそれを克服する可能性についての学びがあり、無力感や罪悪感や愛情についての学びがあった。ふたりが息を引き取ったときに一緒に家にいられたことはいまでもありがたいと思っているし、親が孤独でなくて本当によかったと思う。

 死へと向かう旅のさなかにある末期患者に寄り添うプロセスは、かつては誰もが通る共通体験だったし、たった一世代前の人びとにとってすらそうだったろう。しかしこの数十年で、死はいつしか基本的に医療を介した体験となっていた。死という出来事そのものが、家庭から病院へと移送されてしまったのだ。私がこうも緩和ケアスタッフの仕事に感化され、その重要性を認めるのは、この文脈においてにほかならない。緩和ケアを担うチームは、その思いやりある気持ちと自分たちのもつ専門技術、自分たちの投じるその時間でもって、患者本人とその家族が来るべき事態に向けた精神的かつ情緒的な備えをする手助けをし、そうすることで、患者が自宅で愛する者たちに囲まれて安らかに死を迎えられるようにする。重責から目をそらすのでなく、それを分かち合うことによって彼らがしかと肯定するのは、私たちが人間であることそのものなのだ。

 本作で語られる物語を見て、悲しい気持ちになることはあるかもしれない。けれども私としては、これが慰めや励ましとなり、避けられない運命に向き合うことが少しでも怖くなくなってくれればいいと思う。死にゆく人から目を背けない限り、「望ましい死」は私たちの誰にとってもひとつの可能性となりうるのだから。


- ファリーダ・パチャ

1972年ムンバイ生まれのナショナル・フィルム・アワード受賞ドキュメンタリー映画作家。米国 南イリノイ大学で映画制作を学び、長編ドキュメンタリー第1作『私の名は、塩』(2013)は80以上の映画祭で上映され、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭、エディンバラ国際映画祭、香港国際映画祭、マドリード国際映画祭、ムンバイ国際映画祭などでの主要賞を含む34の賞を受賞。人間の条件を探求することへ強い関心をもち、詩的かつ調査的手法で現実に迫り、独自の観察スタイルで時間をかけてゆっくりと展開する親密なストーリーテリングを特徴とする。その他の短編作品に『The Seedkeepers』(2005)、『The Women In Blue Berets』(2012)がある。