English

審査員
イグナシオ・アグエロ


-●審査員のことば

 映画は世界の複雑さに近づくことができる。なぜなら、ある意味、映画は世界の模型でもあるからだ。複数のイメージが連動して組み合わさり、一瞬の美を生み出すこともあるそれは、あるひとつの視点から見た物事の真実であり、それ以上でも以下でもない。つまり映画とは言語であり、その言語を通じて、物事の複雑さが自らを語ることができる。そこに映画と科学の共通点があると言えるだろう。しかし映画には、データや証拠は必要ない。映画はイメージで語る。そしてイメージは多義的だ。稠密でありながら多義的であり、同時に深い淵でもある。そして何よりも、もし映画作家がイメージを用いて特定の何かを伝えようとしないのであれば、映画は私たちを謎の領域へと連れていく。その領域は、死の領域と同じであり、そして生の領域と同じだ。そう考えると、むしろこれはユーモラスでもある。


イグナシオ・アグエロ

1952年チリのサンティアゴに生まれる。チリ・カトリック大学で建築と映画を学ぶ。映画は主にドキュメンタリーを撮ってきた。また、自身の映画の多くで、写真、撮影、脚本、音響、プロデュースを務めるとともに、チリのテレビのテレフィルムにも多数出演。1988年の国民投票時に放映されたTVスポット『ピノチェトにNOを』を共同監督。ピノチェトはこの投票で敗北した。ラウル・ルイス監督作をはじめ、多くの映画に俳優として出演している。アルゼンチン、ペルー、ボリビア、ブラジル、スペイン、メキシコで、監督作の回顧上映が行われた。数々の国際映画祭で受賞経験があり、世界各国でワークショップを開催するとともに、多くの映画祭で審査員を務めている。2012〜17年にかけてチリ大学で教授を務め、修士課程でドキュメンタリー映画制作を指導。最新作『これが私の好きなやり方2』は2016年マルセイユ国際ドキュメンタリー映画祭でグランプリを受賞した。現在はドキュメンタリー映画『I Never Climbed the Provincia』を撮影中。YIDFFではこれまで、『100人の子供たちが列車を待っている』(1988、YIDFF '89)、『氷の夢』(1993、YIDFF '93)、『サンティアゴの扉』(2012、YIDFF 2013優秀賞)を上映している。



これが私の好きなやり方2

This Is the Way I Like It II
Como me de la Gana II

- チリ/2016/スペイン語/カラー、モノクロ/DCP/86分

監督、脚本、ナレーション:イグナシオ・アグエロ
撮影:ダビド・ブラヴォ、アルナルド・ロドリゲス、ガブリエル・ディアス
編集:ソフィー・フランサ
録音:アンドレア・ロペス、マリオ・ディアス、フレディ・ゴンザレス
製作:アマルリック・ドゥ・ポンシャラ、テアニ・スタイゲル、ヴィヴィアナ・エルペル
製作会社、配給:Ignacio Agüero y Asociado Ltd.

撮影中の映画監督たちに割り入り、「独裁政権下で作品を作る意味」を問うインタビューで構成した『This Is the Way I Like It(これが私の好きなやり方)』から30年。現代のチリ映画は国内外で高い評価を獲得している。アグエロ監督は、楽しそうに撮影現場に入り込み、「“映画的なもの”とは何か」と不躾に質問を投げかけ、次世代の監督たちと問答を重ねる。自身の子どもたちとのプライベート映像や、『100人の子供たちが列車を待っている』(YIDFF '89上映)の映画学校の先生へのインタビューが重なり、映画の本質を巡る旅は明確な答えを秘めたまま深まっていく。