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願いと揺らぎ

Tremorings of Hope

- 日本/2017/日本語/カラー/Blu-ray/146分

監督、撮影、編集、録音、提供:我妻和樹

2011年3月11日の東日本大震災により未曾有の地震と津波に襲われた宮城県南三陸町の波伝谷はでんや。そこに暮らす人々の被災後の姿を追いながら、復興への願いとそれぞれの立場と思いからくる心の揺らぎを、伝統行事の「お獅子さま」復活の過程をめぐって描き出している。震災の前と後の映像による対比を背景に、監督自身が人々と深く関わる姿を交えながら、多くの課題を抱えた復興への苦難の道のりが生き生きと、刺激的に活写される。YIDFF 2013「ともにある Cinema with Us」で上映された『波伝谷に生きる人びと』のその後である。



【監督のことば】僕がはじめて宮城県南三陸町の小さな漁村、波伝谷を訪れたのは、大学1年も終わりに差し掛かった2005年3月12日のことでした。当時、民俗学を学ぶ学生の一人として、先生方、先輩方、多くの仲間とともに波伝谷に入り続け、2008年3月には、漁村の暮らしをまとめた200ページに及ぶ民俗調査報告書が刊行されました。

 学生時代に3年間波伝谷に足を運び、ひとつの地域社会の歩みと人の営みを丹念に見続けるなか、ここで映画を作りたいという気持ちが強くなっていきました。時代の変化という波に晒されながらも、土地に根差し、地域と深く関わり合いながら生きる人びとの生き方を深く見つめていくことで、人と人との共生のあり方について、ひとつの普遍に辿り着けるのではないかと考えたからでした。

 そうして2008年3月の大学卒業と同時に、波伝谷でのドキュメンタリー映画制作が始まりました。間に震災という大きな出来事を挟み、僕自身、震災後の波伝谷をちゃんと腰を据えて撮影できたかというと、そういうわけではありません。それでも「土地とともに生きる」、あるいは「地域とともに生きる」ということが一体どういうことなのか、震災前から波伝谷を追い続けてきた自分だからこそ伝えられることが、この映画で表現できたのではないかと思います。

 12年にわたり、僕を受け入れてくれた波伝谷の方々の懐の深さに、心から感謝します。


- 我妻和樹

1985年、宮城県白石市出身。2004年、東北学院大学文学部史学科に入学。翌年3月より、東北歴史博物館と同大民俗学ゼミナールの共同による宮城県南三陸町波伝谷での民俗調査に参加、主要メンバーの一人として活動する。2008年3月、漁村の暮らしをまとめた報告書の完成と同時に大学を卒業し、以後、夜勤のアルバイトで生計を立てながら波伝谷でドキュメンタリー映画の制作を続ける。2011年3月11日の東日本大震災時には、自身も現地で被災。その後、震災までの3年間に撮影した240時間の映像を『波伝谷に生きる人びと』(YIDFF 2013)としてまとめる。 2014年夏に宮城県沿岸部で縦断上映会を開催した後、全国の映画館にて公開。2015年、宮城周辺で活動する映像作家と市民の交流ネットワークである「みやぎシネマクラドル」を立ち上げ、現在は震災後の長編第2作を編集する傍ら、劇映画にも挑戦している。