やまがたと映画 |
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Part 3 やまがた美女列伝
まずは龍田静枝(1903-1962)。山形県上山市金瓶出身。女流写真家を目指して日本女子大を中退。その後女優を目指す。島津保次郎監督に可愛がられ『当世気質』(1927)、『恋愛風景』(1929)など相当数の作品に出演する。モダン・ガールのはしりとして人気を集める。島津以外にも、五所平之助(『新女性鑑』1929など)や豊田四郎(『彩られる唇』1929)、あるいは斎藤寅次郎(『愛して頂戴』1929など)、成瀬巳喜男(『愛は力だ』1930)などの監督作品にも出演しているが、フィルムはあまり残っていない。引退後銀座でバーを開店し人気を博す。1962年死去。
続いて佐藤千夜子(1897-1968)。山形県天童市出身。天童教会の伝道師に才能を見いだされ、音楽を志す。中山晋平、野口雨情らと親交を深めレコードデビュー。「波浮の港」がヒット。翌年、「東京行進曲」で日本初のレコード流行歌手となる。今回上映の2作品とも、このヒットにあやかり制作されたもの。ただし佐藤千夜子自身は出演していない。オペラの勉強のためイタリアに渡る。中山晋平との不倫関係の清算のためとの説も。だが、帰国後かつての名声が復活することはなかった。晩年はさみしいものだったという。
(富塚正輝)
虚栄は地獄
Vanity Is Hell- 1925/サイレント/モノクロ/16mm(原版:35mm)/15分
監督:内田吐夢 撮影:早川清 出演:龍田静枝、長谷川清
製作会社:朝日キネマ 提供:マツダ映画社
珍しや、内田吐夢の喜劇である。劇映画第1回監督作品。大好評でプリントが100本ほど売れたという。龍田静枝のモダン・ガールぶりが実にいい。甘い新婚生活を送る靴磨きの春夫とバス・ガールの夏子。実は春夫は大企業のエリート・サラリーマンというふれこみ。なぜなら社長秘書と称する夏子を得んがためだった。ある日靴磨きの姿を夏子に見られ、春夫は絶望し自殺を図る。バスに轢かれて死のうとするが、驚いて降りてきたのは夏子だった……。
己が罪作兵衛
My Sin: Sakubei's Story- 1930/活弁トーキー/日本語/モノクロ/16mm(原版:35mm)/21分
監督:佐々木恒次郎 原作:菊地幽芳 脚色:柳井隆雄 撮影:猪飼助太郎
出演:井上正夫、龍田静枝、武田春郎、小村新一郎、奈良真養、菅原秀雄、山川真砂夫、月岡初子、松井潤子
製作会社:松竹キネマ 提供:マツダ映画社
原作は新聞小説の形式を確立したといわれる菊池幽芳の代表作。新派三大悲劇のひとつが『己が罪』。映画化だけでも20回を超えるという。原作は龍田静枝演じる環が主人公だが、本作は作兵衛に焦点をあてている。環は医者の塚口と恋仲だったが、身ごもった末に捨てられる。環は自殺を図るが、漁師の作兵衛に助けられる。環の父親の願いで作兵衛は環の子を育てることになる。そして環は桜戸子爵に嫁ぐのだが……。
東京行進曲
Tokyo March- 1929/活弁トーキー/日本語/モノクロ/16mm(原版:35mm)/24分(短縮版)
監督:溝口健二 原作:菊池寛 脚色:木村千疋男 撮影:松沢又男、横田達之
出演:夏川静江、一木礼二、高木永二、小杉勇、入江たか子、佐久間妙子、滝花久子
製作会社:日活 提供:マツダ映画社
千夜子の大ヒット曲にあやかった溝口作品。菊池寛の原作による。溝口演出によるラジオ・ドラマも大ヒット。本来は全10巻による長編作品だが、現在は短縮版しか残っていない。夏川静江(道代役)と小杉勇(佐久間役)の演技が注目を浴びた。大富豪の息子藤本良樹が、亡くなった芸妓の娘道代に一目ぼれ。しかし伯父が失職したことから道代も芸妓となる。ある宴席でふたりは再会し、良樹は求婚するのだが、道代は実は良樹の異母兄妹だった……。
波浮の港
The Port of Habu- 1929/サイレント/モノクロ/16mm(原版35mm)/34分
監督:根津新 原作、脚本:佃血秋 撮影:平野好美
出演:歌川るり子、東千代子、高田稔、住吉恵美子
製作会社:東亜キネマ 提供:マツダ映画社
これも千夜子のヒット曲にあやかったもの。「波浮の港」は商業レコード第1号とされる。主演の歌川るり子は一時作詞家サトウ・ハチローの夫人だったこともある。カフェー・ブランデーの女王かほるは、失恋の痛手に耐えかねて、故郷の大島から東京に流れてきた。想いを寄せている客の高井はモダン・ガール嫌い。といってかほるも“モガ”になりきれているわけではない。そこに妹お光が姉を訪ねてくる。一文無しになったお光を助けたのは高井だった……。