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映画祭2003情報

アジア千波万波の傾向


強い意欲

 当映画祭でアジア・プログラムが創設された1991年から12年。小川紳介賞がアジアのもっとも可能性のある作家に初めて授与された1993年から10年。アジアでは政治・経済、そして社会全体が急速に変貌を遂げてきた。

 そのアジアで、ビデオカメラとパソコンの普及と並行し、「映像づくりをしたい!」という強い意思が各地から一気に噴き出している。――これが2003年のアジア千波万波を迎えるにあたっての印象だ。映像を通し人に何かを伝えたい、オリジナリティを模索して自己表現をしたい、と考える層が一挙に台頭してきた感である。

 前回公募の2001年からたった2年間で、中国からの応募総数は30本から95本に急増、インドからも63本から118本に増加。直接足を運び調査した中でも、シンガポールやインドネシア、香港などで、ドキュメンタリーをはっきり志向する映像製作者の登場が見られる。この中から、荒削りでも独自の視点と手法を駆使して作った作品が30本、今年のアジア千波万波の並びとなっている。

欧米留学組

 全体として特徴的なのは、欧米でドキュメンタリーを学ぶ作り手が非常に多いということ。バングラデシュ、中国、韓国、台湾、タイ、香港、モンゴルなどアジア全域から、アメリカやヨーロッパの学校に留学し、それでも自国のリアリティに目を向ける若い世代。映画史を勉強し、さまざまなタイプのドキュメンタリーを見る機会を得、そして教師から適確なアドバイスと精神的なサポートをもらいながら自分の作品づくりに取り組む。半ば本能的に、または必然に迫られ、カメラを回していた今まで主流の独学組とは異なる映像感覚を有している。

 そうして作り出された新しいアジアの作品群は、今までになく観客の心をつかむ術を持っているだけでなく、外からの視点を獲得している。映画を作る自分を内省するように、自分の文化を外から見たことのある人の眼差しがいきている。

 作品名で言うと『砂と水』、『350元の子』、『円のカド』、『エディット』、『家族プロジェクト:父の家』、『ジーナのビデオ日記』、『永遠回帰』、『霧鹿村のリズム』、『ショート・ジャーニー』がそうである。

国境を越えて

 今年のSARS禍であらためてボーダーレスなアジアの貌が意識された。世界と分かちがたく結びついている各国の人々の在りようは、多くの作品に反映されている。

 『ヒバクシャ ― 世界の終わりに』は核兵器や核施設による被曝がイラク、日本、アメリカの一般市民を脅かしている可能性を示唆する、世界規模のドキュメンタリー。『蒲公英的歳月』は日本に不法就労に来る中国人一家の実態に迫る。『それから』は朝鮮戦争で米国に嫁いだ老婆の、新天地での生き様を描く。『彼女と彼、ヴァン・レオ』はかつてヨーロッパの一部とさえみなされたカイロの街のアラブ化を、がんこな老写真家の口から聞く。『霧鹿村のリズム』では台湾先住民族の村が、漢民族や外国人と接触していく現場を見つめる。『人生のバラード』は戦争を逃れ、イランの綿花畑で働くアフガン人家族の心を映す。

連続した歴史観

 さらに、アジアの自国の歴史を捉え直す作業を若い世代が引き継ごうとする試みが印象的だ。軍事政権下の韓国の忘れられた蜂起事件に光をあて、当事者の現在を問うのは、当時5歳だった女性監督だ(『塵に埋もれて』)。マレーシアの『ビッグ・ドリアン』は、15年前に民族対立の緊張をあおったひとつの事件の記憶を、時間を経た今だからこそユーモア交えてひもといていく。インドの『あなたはどこ?』はかつて栄えた影絵芝居の演者たちを訪ね歩き、いまだ生きている歌と、埃を被りながらもまだまだ現役な人形に光をあてていく。いずれも作り手は、その当時を同時代に生きていないが、過去と現在と未来がつながった歴史観を作品に反映させる。

ショート・フィルム

 今年のアジア千波万波は20分以内の短編が比較的多い。インド・イラン・キルギス・タイ・パレスティナなどのこれら作品では、作品の短さが経済的な理由からではなく、その作品を効果的にするためのひとつの必然として選択されていることは注目すべき。遊び心いっぱいの映像構成『迷路』と『ニュー(改良版)デリー』、報道カメラさながらの臨場感あふれる『ショート・ジャーニー』と『デブリ』、無心に遊びに興じる男たちを一歩さがったところから見つめる『オルド』。

新しいテレビ

 今年の応募作にはテレビで放送されたドキュメンタリーも多かった。特に中国の地方テレビ局からは膨大な数、しかもこれがテレビかと驚くような実験精神のある映像も寄せられ、インドからは国営テレビに新しく設立された「The Open Frame」という一般公募式のドキュメンタリー枠(毎週日曜に放送)が輩出した作品が、インドという国にあふれかえる魅力的な題材の数々を見せてくれた。当映画祭で上映できる本数が限られているため、紹介できないのが残念だ。

 しかし多くの中から選ばれた中国とインドの作品は、いずれも企画書の枠に収まらない創造性と、熟考を重ねた時間が感じられ、今年のアジア千波万波の目玉作品とさえ言えるだろう。ご期待ください。

アジア千波万波コーディネイター 藤岡朝子


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