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YIDFF 2019 リアリティとリアリズム:イラン60s−80s
水、風、砂
アミール・ナデリ 監督インタビュー

ヤマガタは観客と映像の息が一緒になっていました


Q: 山形の映画祭は、2003年に審査員として来られた時以来だそうですね。

AN: 15年ぶりです。ヤマガタは、とてもいい雰囲気のなかでの上映だったのが思い出に残っていて、ずっとまた来たいと思っていました。当時審査で観た、王兵(ワン・ビン)の9時間の映画『鉄西区』や、アメリカのスティーヴ・ジェイムスの『スティーヴィ』、イランのマーヴァシュ・シェイホルエスラーミの『ハーラの老人』など、どれも記憶に残っています。その後も、他の映画祭でヤマガタのスタッフと会って情報交換をしていたので、いつもヤマガタに来ているような気持ちでした。ヤマガタは、映画や映画の将来を考えてプログラムが組まれている数少ない映画祭です。映画祭が終わって、帰ったら忘れてしまうのではなく、映画祭から何を得たかがとても大事です。

Q: 今回の、イラン映画のプログラムの感想をお聞かせください。

AN: わたしのレトロスペクティブがパリで上映された時、運営側は上映素材を用意するのに苦心していたので、ヤマガタも苦労するだろうと思い、いい素材が集まらないのではないかと心配していました。でも、ヤマガタに来てみると、プログラムも素材もとてもよく、事務局は本当に素晴らしいことをしてくれたと思いました。心から感謝しています。スタッフのみなさんは優しくて、誠実で、心を込めて映画祭をやってくれています。

 プログラムのほぼ全作品を見ましたが、撮影に関わったり、現場を見ていたりなど、すべての作品に自分が関わっていたので、舞台でも映画についてお話しすることができました。一番感動したのは上映順まで考えられていたことです。最終日の『バシュー、小さな旅人』の上映は、まるで交響曲がクライマックスをむかえて終わるかのようでした。37年間イランに戻っていませんが、今回の特集上映を観て、詰まった息をリリースしてもらって、過去の自分に戻ったような気持ちになりました。細かい音も含めてすべての音が聴こえ、映像も綺麗でした。観客も映画を尊重し、真摯に観てくれて最高でした。映像と観客の息が一緒になっていたんです。このような素晴らしい映画祭になったのは、映画祭が始まった時の根っこがしっかりしていて、木が正しく成長したからだと思います。

 また、イランの若手ふたりの作品が、アジア千波万波で上映されましたが、どちらも感動しました。彼らがちゃんと正しい道を歩んできたのを見て安心しました。今までのイラン映画をちゃんと観て尊重しているし、作りがしっかりしています。

Q: トークでは「私は難しい人生を選ぶ。簡単な人生は飽きるから」とおっしゃっていましたね。

AN: それが私の性分ですからね。今まで作った作品は、すべて自然のなかで撮っています。チャレンジするのがすごく好きなんです。チャレンジがなければ、エネルギーが湧いてきません。自分だけでなく、スタッフも役者もどん底に落としてから映画を作ります。そうすると、みんなどんどんエネルギーを出してくるのです。『山〈モンテ〉』を作った後、何をしようかと考えたときに思いついたのが、溝口健二監督についての映画です。私は日本映画からたくさん学んだので、何かお返ししなければと思いました。溝口の美しいカメラワークなど、すべてを使って、日本映画に報いたいと考えています。

(構成:猪谷美夏)

インタビュアー:猪谷美夏、徳永彩乃/通訳:ショーレ・ゴルパリアン
写真撮影:新関茂則/ビデオ撮影:新関茂則/2019-10-15