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YIDFF 2019 日本プログラム
沖縄スパイ戦史
三上智恵 監督、大矢英代 監督 インタビュー

今を考えるための戦史


Q: これまでの三上監督の作品は、基地問題での住民運動が取りあげられていました。今回はなぜ沖縄戦をテーマに選んだのですか?

三上智恵(MC): これまで沖縄の基地問題を扱いながら、「実は自分たち日本全体の問題なんだ」ということを映画の中で訴えてきました。それでも「沖縄大変ね」というような感想で終わってしまうようなことがあって、前回の作品を撮った後にすごく悩みました。今の日本に感じている民主主義や三権分立への危機を伝えるには、沖縄戦を取りあげるしかないと思ったんです。私は12歳くらいからずっと沖縄戦のことに関心があって、沖縄戦のほうがホームグラウンドという感覚があったので、そっちで勝負したほうがいいと考えたのもありました。

Q: この作品と今の日本をつなげて考えたとき、特に意識した問題はありますか?

MC: 自衛隊基地の問題です。沖縄の基地問題というと、応援してくれる人は多いのですが、自衛隊反対というと「ちょっと難しい」と引いてしまう。日本の軍隊である自衛隊がまた沖縄に作られていることは、まさに1944年の再来です。当時の島の人々は、日本軍が入ってきたとき、自分たちを守ってくれると思ってしまったけれど、全然守ってなんかもらえなかった。このときに何が起こったかを知ることは、「沖縄に自衛隊が来たらなんとなく自分たちは守ってもらえるんじゃないか」とぼんやり考えている全国の人にとって大事な話になると思います。

Q: スパイを行っていた青年たちはどのような人物だったのでしょうか?

MC: スパイだった青年たちが「悪いことをした」と思っているかは別として、被害者や自分たちの加害行為と向き合ったかどうかで、彼らの見え方が変わると思います。少年たちを処刑したスパイで、武下少尉という青年が出てきました。今帰仁村なきじんそんには「武下観音」というのがあって、地域の人に大事にされています。「殺人鬼なのになんで?」と思いますよね。そこには戦後何十年も、住民と武下少尉の遺族が交流して積み重ねてきた時間というのがあるわけです。住民はひどいことをされたと思っているけれど、武下少尉の両親にとっては愛くるしいピカピカの長男を失ったという側面も見えてくる。いかにも殺人鬼みたいな人間が悪いことをするなら、わかりやすくて受けとめやすいけれども、素敵な23歳だったらなぜそういうことをしたの、と思うじゃないですか。だから、向き合ってくれる時間があると、周りや家族の情報とかが出てきて、住民もこの問題を考え直すチャンスが生まれますよね。そこで初めて「自分だったら」と考える余地が生まれて、物事の本質により近づけるようになるというのは面白いことだと思います。

大矢英代: 山下虎雄も、戦後3回島に来て絶縁状を突きつけられているので、それなりに島への思いがあるわけですよね。私はここ何年かアメリカの元兵士の方の取材をしていますが、彼らが自分の罪を認められないというのはある種のPTSDです。罪を認めてしまった瞬間、取返しのつかないことをしてしまった自分の人生を否定することになってしまう。山下が戦後自分の罪を認められない、公に謝罪ができなかったということも、ひとつのトラウマだったのかもしれません。真相はわからないけれども様々な捉え方ができるし、葛藤があったのではないかなと思います。

(構成:宮本愛里)

インタビュアー:宮本愛里、長塚愛
写真撮影:大下由美/ビデオ撮影:大下由美/2019-10-14