塩崎登史子 監督インタビュー
今の時代に必要なもの、みんなに観てもらいたいものを
Q: 審査、お疲れさまでした。まず、全体の印象をお聞かせください。
ST: 今回、21作品を観たのですが、素晴らしい作品ばかりで選ぶのが大変でした。ヤマガタには何回か来てるんですけど、アジアの作品が力強くなったと感じます。前は、多少粗削りな作品も多かったんですけど、技術的な水準もアップして、構成も洗練された作品が増えて、ちょっとびっくりしましたね。
Q: 特に、審査するうえで重要と思われたことは、なんですか?
ST: まず、小川紳介賞と奨励賞の3本ですが、今の時代に必要なもの、みんなに観てもらいたいものを選びました。それから、これを撮るのは大変だったろうと思われるもの。そして、初の長編ドキュメンタリーを撮った若い監督の作品、というのが注目した共通の点ですね。
この3本は、みな社会的なものをあつかったものです。タイトルだけみると、今回の審査員は、アクティビスト系だけが好きなんじゃないかと、思うかもしれませんが、私も、一緒に審査したテディ・コーさんも、実験的な作品も、ポエティックなものも、静かな作品も好きだし、そればかり好きなわけではありません。今の時代に必要とされているんじゃないかという視点を入れて、特にこの3本を選んだわけです。
コーさんが、スピーチの時にも言ってましたけど、今、フェイクニュースとか、フィクションぽいドキュメンタリーとかたくさんあるんですけど、こいいう時代だからこそ、リアリティというか、ほんとのフッテージの力を再確認したい、演出されていないそのままを、もう一度重要視したいということもありました。
テディ・コーさんとは、すごく気が合いました。考え方とか思考も通じやすく、コミュニケーションもとりやすかったです。面白かったのは、まず3つ選ばなければいけないということで、3つ書いてお互いに見せようって言って、ぱっと見せたら、その3本が同じだったんです。すごいでしょ?
Q: それではまず、小川紳介賞の『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』について、お聞かせください。
ST: この映画は、デモクラシー、民主主義とは何かについて考える、とてもいい映画だと思いますし、運動している若い人たちの、青春映画になっているのが素晴らしいと思いました。デモを扱った映画はたくさんありますが、青春のなかでがんばってる人たちの、葛藤とか苦しみが入っているという点で、素晴らしいと思ったんですね。賞に選ぶことによって、もっと上映の機会がふえるきっかけになればいいと思いました。香港はいろいろ大変で、応援のメッセージもあって、これを選びました。監督の陳梓桓(チャン・ジーウン)さんが、勇気づけられたと言ってくれたので、よかったかなと思います。
日本も含めて、世界中が内向きになっていて、ほっておくと政治家が好きなように、やりかねない世の中になってるじゃないですか。だから、これは香港だけの問題じゃなくて、われわれも注視していかなくちゃいけないし、デモクラシーを考えるいいきっかけになるんじゃないかと思います。特に、大学生とか、若い人たちに観てもらいたいなと思います。
Q: 奨励賞2本についてはどうですか?
ST: 奨励賞の2つは、まず、先ほど言ったわたしたちの基準に合うものだったし、『あまねき調べ』は美しい作品だと思います。置かれている現状の大変さ、労働の楽しさ大変さというのもはいってるんですが、それを、唄でつむいでいるところも素晴らしいと思いましたね。
「いつも、あんなににこにこしてるの?」って聞いたら、にこにこしてるって言ってました。映っている人たちの魅力もすごいなって思いました。動きも、表情も、そのたたずまいが美しい。日本もかつてはああだったんだろうと思います。音もいいバランスで録れていて、技術もありますが、なにより彼らが、そこに住み込んで、何年も撮ってたという姿勢に感動しました。誠実さを感じましたし、取材対象者に対する愛情も感じました。私も、こういう映画を作ってみたいなと思いました。
『人として暮らす』は、いろんな人がホームレスを撮っているけれど、ここまで密着して撮るってなかなか難しいんですよ。日本と福祉のシステムが似てるので、生活保護制度の問題、いろんな矛盾の部分も非常に似ている。ひとごとじゃないですね。
ディレクターが純粋で、ほんとに貧困な人たちのために、映画を観てもらって世界を変えたいっていう崇高な気持ちを持っています。社会的な問題だし、なんとかしなきゃという気持ちで撮りはじめたということですが、しっかり撮れていて、若いのにすごいなと思いました。簡単には撮れないんですよね、ああいうのって。まず、人間関係作って、信用してもらわなくちゃならないし。これは小川プロの『どっこい! 人間節』を彷彿とさせます。監督に観たかと聞いたら、知らないって言ってましたけど、みんなそのスピリットはあるんですよ。農業のことは『あまねき調べ』に、『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』は三里塚的だし。リアルなもの・ヒューマニティ・抵抗という小川紳介のスピリットもはいっていると思います。
Q: 特別賞と奨励賞の違いは、どこにありますか?
ST: 特別賞は、もっとたくさんあげたかったんですが、どんどん挙げていったらきりがなくなったので、この2本を選びました。『パムソム海賊団、ソウル・インフェルノ』は、前の3本とは違うもの、真面目なだけじゃなくて楽しいし、ビジュアル的にもいろいろ実験していて、新しい語り口で面白いと思って選びました。特に反北朝鮮でもなく、反韓国でもないんです。すべて両方の政権をおちょくっている。バンドの人たちも、撮った人たちも面白かったし、歌ってる内容も笑っちゃう。韓国に対する見方も、これによって変わったんじゃないかな……意外に自由なんだなと。
『翡翠之城』は、この人だからこそ撮れた作品です。現状知ってる人じゃなければ行ける所ではない。その大胆さと、彼らだから撮れたというところがすごいなと思いました。このお兄さんのような人たちは、世界中にいっぱいいるんですよ。宝物を探して、みんなそれを得られなくて、すべてを失ったりする。お兄さんは、翡翠を探していたけれど、翡翠は山の中にあるんじゃなくて、台湾にいって成功した弟自身だったところが、面白いですね。
この映画祭は、より世界にしられるようになって、定着したかなと思います。内容が充実しているし、西洋では観られない映画がここでは観られる。ヤマガタだからこそ、上映できるものがあるんです。パレスティナとイスラエルの映画が併映されるなんて、他では考えられないと言われます。観客と映画制作者の距離が近いのも魅力なんですよ。海外で、「ヤマガタいいよ」っていうと、「うん、前に行って、よかった」とか「行きたいと思ってる」という答えが返ってきます。それは素晴らしい財産だと思います。失わないようにしてほしいです。
(構成:桝谷頌子)
インタビュアー:桝谷頌子、棈木達也
写真撮影:楠瀬かおり/ビデオ撮影:楠瀬かおり/2017-10-12