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YIDFF 2017 インターナショナル・コンペティション
インターナショナル・コンペティション審査員
七里圭 監督インタビュー

ドキュメンタリー映画は劇映画でもある


Q: 映画祭全体の印象を教えてください。

SK: 私が最後に参加したのは1993年ですから、24年ぶりの参加となります。ソクーロフの『ロシアン・エレジー』を見てからもうそんな月日が経ったのかと思うと、感慨深いです。1週間丸々映画祭を堪能することができて非常に楽しかったです。山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)は自分にとってとても大切な映画祭です。ペドロ・コスタ王兵(ワン・ビン)アピチャッポン・ウィーラセタクンなど、YIDFFから紹介される映画監督に多大なる影響を受けてきました。多忙で映画祭に参加できなかった年も、誰がコンペティションで受賞したのか気になっていました。

Q: 初めて審査員を務めた感想は。

SK: 勉強になりました。打診されたときは、自分が引き受けていいのかという思いもあり、とても悩みました。でも結果的に引き受けて良かったです。私が初めて映画祭に参加したのは1989年で、まだ学生でした。今回、審査員長だったイグナシオ・アグエロ監督の『100人の子供たちが列車を待っている』という作品を見て、感銘を受けました。およそ30年経って、ここでこうして一緒に審査員をしている。何か不思議な感じがします。さまざまな素晴らしい作品を見せてくれた映画祭で、ここでこうして恩返しができたことをうれしく思います。

Q: 七里圭監督のドキュメンタリー作品に対する思いを教えてください。

SK: 映画はジャンルでは区別できないと思っています。だから私にとっては映画も劇映画も実験映画も差異はありません。「○○部門」と分けられていますが、そういうものは時代とともにナンセンスになってくると思います。優れた劇映画ほど、ドキュメンタリー要素、実験映画要素が含まれていますし、その逆もまた然りです。それこそフラハティの時代でもそうだったと思います。「山形国際映画祭」と呼んでもいいのではないかと言うほどそう感じます。もちろん本当にYIDFFの名前を変えて欲しい訳ではありません。なぜならこの名前にこそ多くの作家の小川紳介に対する敬意、そして小川本人の信念が込められているからです。

Q: インターナショナル・コンペティション出品作の印象はどうでしたか。

SK: 出品された15本すべてが良かったです。とてもバラエティに富んだラインナップで、どこかに偏るということもありませんでした。しかし残念ながら、別格だと言えるような突出した作品はありませんでした。

 私個人が良いなと思ったのは沙青(シャー・チン)監督の『孤独な存在』です。とても地味でつつましい作りでありながら、ひとつひとつのカットがとてもていねいです。一見するとなんでも無いようなシーンでも、「これはまさかフィクションではないのだろうか」と思う程に被写体の目線や、聞こえてくる音がすごく作り込まれています。この作品と『オラとニコデムの家』は絶対推薦しようと思っていました。

Q: アンナ・ザメツカ監督作品『オラとニコデムの家』の良かった部分はどこでしょう。

SK: あの映画こそフィクションとドキュメンタリーの垣根がない映画です。被写体である姉と弟、そしてアルコール中毒者の父親。3カ月という短期間に、よくあれだけの物語を構成する映像が撮れたものだと感心しました。被写体に撮る側を意識させず、あたかもずっと一緒に生活していたかのように、自然な映像となっています。驚異的なことです。どうやって撮ったのかとても気になります。このような作品は、今までもありました。見ている最中もさまざまな映画を想起させられました。ダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』やブレッソンの『少女ムシェット』など、それはドキュメンタリー映画に限ったことではありません。

 この映画は、どの立場に寄り添うかとてもはっきりしている映画だと感じました。彼らの貧困生活を撮るという抽象的なものではなく「教会や学校は手を差し伸べないけれど、私はこの子らに寄り添っていきます」という意志がとてもはっきりしていました。寄って撮った映像とピントの合い具合が、そういった監督のマインドと一致していて、見ている側としても作品の世界にすうっと入っていきやすかったです。

Q: どんな基準をもって審査に臨みましたか。

SK: 正直に言うと、今回はほとんど意見が割れなかったので、審査の結論を出すまでに時間はかかりませんでした。そこに至るまでのコンセンサスや、話し合いがしっかりできていたからです。どちらかといえば、どれをどの賞にするかで少し相違はありました。

 審査するための作品鑑賞に当たっては、まず「賞を与えるという行為」について話し合いました。優秀な作品に賞を与えるのか、それとも後押ししたい作品に与えるのかというような話し合いです。両方の側面があると私は思っていますが。

 また、その作品がどのような状況で、何を意図して、どんな意義があって作られたものかを考えながら見ました。そういった意味で『カーキ色の記憶』を市長賞に選びました。シリアで起きている切実な問題を、外部ではなく、内部からシリア人の視点で、政治性を持ちながらも偏向的になりすぎることなく、しかし現実から目を背けないで真正面からとらえています。良い映画でした。

Q: 映画祭をより良いものにしていくためにはどうしたらよいのでしょうか。

SK: 良い映画祭をやり続けて、それを伝えて広めていくしかありません。この映画祭を体験すれば、そのすばらしさが分かると思います。支えているひとの暖かさ、優しさ、そして親しみやすさが感じられる映画祭です。

(構成:吉岡結希)

インタビュアー:吉岡結希
写真撮影:大川晃弘/ビデオ撮影:加藤孝信/2017-10-12