2. チリ大学映画実験所 1960−70年代
1960年代、ヨリス・イヴェンス(YIDFF '99特集)やクリス・マルケル(YIDFF 2013特集)の仕事から薫陶を受けたチリの映画作家の卵たちは、70年代の「人民連合」政府の後押しも手伝い、盛んな映画制作を行っていく。その中心的な役割を担っていたのが、シネクラブから始まり、実験映画センター、実験映画学部と名を変え、現在に至るチリ大学だった。ここでは後に国を追われ、国外で活躍した作家たちの初期作品を特集。協力を得たチリ大学シネテカは、デジタル修復作業とウェブでの一般公開も行っている。
ヴァルパライソにて…
Valparaiso. . . À Valparaíso
- チリ、フランス/1963/スペイン語、フランス語/カラー、モノクロ/Blu-ray(原版:35mm)/28分
監督:ヨリス・イヴェンス
助監督:セルヒオ・ブラボ
撮影:ジョージ・ストロウブ
撮影助手:パトリシオ・グスマン・カンポス
編集:ジョーン・ラベル
音楽:ヘルマイン・モンテロ、グスタボ・バセラ
ナレーション・テキスト:クリス・マルケル
製作:ルイス・コルネホ
チリの港町、ヴァルパライソ。山と海に挟まれた勾配の厳しい美しい町並と、廃れた港の生活を、ヨリス・イヴェンス監督が詩情豊かに描く。ナレーションのテキストはクリス・マルケルが執筆した。チリ大学映画実験所黎明期において、チリのドキュメンタリー映画の発展に大きな影響を及ぼした作品。
スーツケース
The SuitcaseLa maleta
- チリ/1963/スペイン語/モノクロ/Blu-ray(原版:16mm)/21分
監督、脚本:ラウル・ルイス
助監督:ホルヘ・レイバ
撮影:エンリケ・ウルテアガ
編集:ラウル・ルイス、インティ・ブリオネス
録音:フェリペ・アルバレス、アルバロ・モルガン
音楽:ホルヘ・アリアガダ
出演:レナト・デュヴォシェル、ゴンサロ・パルタ、エクトール・デュヴォシェル、オリエッタ・エスカメス
ある男がスーツケースとともに移動する。スーツケースの中には、男がいる。スーツケースは男とともに移動し、床に置かれると、中にいる男が……。『見出された時 ―「失われた時を求めて」より―』、『ミステリーズ 運命のリスボン』などで知られるラウル・ルイスの初監督作品。
誰のものでもない地で
In an Alien LandPor la tierra ajena
- チリ/1965/スペイン語/モノクロ/Blu-ray(原版:16mm) /7分
監督、脚本:ミゲル・リティン
撮影、編集:フェルナンド・ベレット
音楽:パトリシオ・マンス
製作:トマス・デ・ラ・バラ
サンティアゴの通りで生活をする人々、貧しい子どもたちを通して、チリの差別や格差社会が見えてくる。ミゲル・リティンの初監督作品。
栄養失調の子ども達
Child MalnutritionDesnutrición infantil
- チリ/1969/スペイン語/モノクロ/Blu-ray(原版:16mm)/13分
監督、脚本、編集、録音:アルバロ・ラミレス
撮影:エクトール・リオス
ナレーション:エクトール・ノグエラ
貧困層のチリの人々は、子ども達の栄養失調に苦しんでいる。極端に痩せこけた状態にある乳幼児、葬式の映像、そして数値により(1950年には、1000人につき約200人の子ども達が亡くなっている)、差し迫った事態の深刻さを訴える。
勝利をわれらに
We Shall OvercomeVenceremos
- チリ/1970/スペイン語/モノクロ/Blu-ray(原版:16mm)/17分
監督:ペドロ・チャスケル、エクトール・リオス
撮影:エクトール・リオス
編集:ペドロ・チャスケル
録音:レオナルド・セスペデス
音楽:アンヘル・パッラ、エクトール・ビジャロボス、アレハンドロ・レイェス、エドゥアルド・カラスコ、リチャード・ロハス
ゴミをあさる子ども達とブルジョアジーの豪邸。栄養失調の子ども達と上流階級の贅沢な暮らし。カメラは貧困層と富裕層の人々の社会を対比していく。そして、労働者階級が立ち上がる。音楽がこの映画の語り部だ。
チリからの伝言
Message from ChileRecado de Chile
- チリ/1978/スペイン語/モノクロ/Blu-ray(原版:16mm)/20分
監督、製作:コレクティブ(チリ7名、キューバ3名)
ピノチェト政権下での、行方不明者の家族会のメンバーの声。不明者の顔写真により、彼らが置かれている現状を浮き彫りにする。キューバ映画芸術産業庁(ICAIC)の協力を得て、チリに残った映像作家たちが制作を試みた。
生意気でだらしのない奴ら
Insolent and DisheveledDescomedidos y Chascones
- チリ/1973/スペイン語/モノクロ/Blu-ray(原版:16mm)/77分
監督、脚本:カルロス・フローレス・デルピノ
撮影:サムエル・カルバハル
編集:ペドロ・チャスケル
音楽:ロス・ハイバス
アニメーション:ハイメ・レイェス
製作:ルイス・モラ
アジェンデ政権下の1971年9月から72年12月の間、チリの若者に焦点をあてたチリ大学映画実験所制作のドキュメンタリー。資本家に労働者、富裕層に貧困層、右翼に左翼と、チリの若者を取り巻く複雑な社会構造を、アニメーションや実験映像の手法を用いて描き出す。