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4. 灼熱のさきへ



現在にも影を落とすかつての軍事政権が遺した負の記憶や、未解決な社会・政治問題。「ラテンアメリカの新しい映画」の熱は、姿やかたちを変えながらも連綿と流れ続けている。アルゼンチン、チリ、ブラジル、ウルグアイ、パナマ。単なる歴史・社会検証ではなく、それぞれの「過去」や「いま」に現代的な視点や手法で出会い直し、作品化を試みる多彩な作風が光りを差す。


-主人 ― コパカバーナのある建物

Master--A Copacabana Building
Edifício Master

ブラジル/2002/ポルトガル語/カラー/DVCAM/110分

監督、脚本:エドゥアルド・コウチーニョ
撮影:ジャッキス・シェウイシェ
編集:ジョルダーナ・ベルグ
録音:ヴェレリア・フェーホ
製作:ジョアン・モレイラ・サレス、マウリシオ・アンドラデ・ラモス

監督のエドゥアルド・コウチーニョと少人数の撮影クルーは、7日間にわたり、リオデジャネイロのコパカバーナ海岸からすぐ近くにあるアパート「マスター住宅」の住人たちを身近に記録した。この建物は12階まであり、各階には23の世帯が住み、合計でほぼ500人になる。そのうちの37人がそれぞれの人生を語り、カメラに対しその家々のドアと、秘めてきた私生活を開いて見せる。



-侵攻

Invasion
Invasión

パナマ、アルゼンチン/2014/スペイン語/カラー/Blu-ray/94分

監督、製作:アブネル・ベナイム
共同製作:アレハンドロ・イスラエル
製作会社:Apertura Films, AjíMolido Films
提供:Cinephil

ノリエガ政権下で起きた、1989年のアメリカによるパナマへの軍事侵攻。再現映像やインタビューを通して、パナマ侵攻がどのように行われ、どのように記憶されているかを大胆な手法で描きつつ、現在、その記憶が意図的に不可視化されつつある様をありありと映し出している。



-プロパガンダ

PROPAGANDA

チリ/2014/スペイン語/カラー/Blu-ray/61分

監督:MAFI(クリストファー・ムライ、イスラエル・ピメンテル、マイテ・アルベルディ、マリア・パス・ゴンサレス、イグナシオ・ロハス、アントニオ・ルコ、アドルフォ・メシアス、フアン・フランシスコ・ゴンサレス、バレリア・ホフマン、フェルナンド・ラバンデロス、カルロス・アラージャ、ジェレミー・ハッチャー、シモン・バルガス、ペラヨ・リラ、フェリペ・アスア、オールランド・トーレス、カミロ・コルボ、エンリケ・ファリアス、ダビ・ベルマル)

19人の若手監督たちが2013年のチリ大統領選挙を追った、膨大なるフッテージを小気味よく繋ぎ、市民と政治家の複雑な関係を考察する旅へと誘う。主張も政策も異なる5人の候補者の選挙運動は、イメージ戦略合戦でもあり、作品はひとつのメディア論とも見て取れる。政治不信が高まり、高校生たちによる大学の学費無償化デモや若者たちの政治参加が鮮明になるなか、映画制作の立場からのひとつの応答。



-地名学

Toponymy
Toponimia

アルゼンチン/2015/スペイン語/カラー/Blu-ray/82分

監督:ジョナサン・ペレル

地名学と題された本作は、1970年代中期にゲリラ組織、主にアルゼンチン人民革命軍(ERP)の弾圧のため、1975年に軍の作戦で攻撃を受け、破壊されたトゥクマン州の西部の地域を映し出す。ゲリラ組織と闘って亡くなった軍人の名前を冠した街路、街角、住居を、ナレーションをいっさい含めず、固定ショットで捉え、いかにその町が、かつて起きた出来事に浸食されているかを淡々と示す。



-新しき人

The New Man
El hombre nuevo

ウルグアイ、チリ/2015/スペイン語/カラー/Blu-ray/79分

監督:アルド・ガライ
撮影:ディエゴ・バレラ
編集:フェデリコ・ラ・ロサ
録音:ラファエル・アルバレス
音楽:ダニエル・ヤファリアン
製作:ミカエラ・ソレ
製作会社:Cordón Films

モンテヴィデオで、路上駐車の見張りをして日銭を稼ぐ、トランスジェンダーのステファニア。ニカラグアで生まれ、サンディニスタ革命時に少年兵として活動、そこで出会ったウルグアイの左翼活動家に引き取られた過去を持つ。カメラは、少年として育った故郷ニカラグアの記憶を辿り、ウルグアイで女性として生きる自身を見つめるステファニアの姿を静かに映し出す。