Q: 関根さんというと、東京の大都会に潜む廃墟を撮るというイメージがありますが、今回はどうして神戸は摩耶山の中腹に佇む廃墟を選ばれたのですか。
sh: 私が廃墟を撮り始めたのは87年からで、それから5、6年間はある程度良いスタンスで撮り続けましたが、その後作品をつくることが出来なくなり、とにかく映画をつくらなければまずいなという状態の時、ある雑誌の記事で神戸の「摩耶観光ホテル」を知ったのです。そこは建物と周りの山との環境が織りなす大自然の動きが凄く、撮る方としてはたまらない素晴らしい風情がありました。
Q: 『MAYA』では音が想像力を掻き立ててくれます。音についてどのようにお考えですか。
sh: 撮影に行った時に、目で見たものと、耳で出会ったことが非常に強烈にあったんです。やはり撮影時に撮った印象を、どれだけ編集してスクリーンまでもって行けるかということは映画の表現の中でかなり重要な考え方だと思うのですが、現場の音を録っておけば、それは絶対に使えるはずなんです。そういうことにようやく気が付いて、今回は最初から音をしっかり録ろうと思って録音機材を持って行き、そのおかげで『MAYA』っていうのは完成しました。
Q: カメラの動きがとても心地よく感じました。あのような動きはどうしたら生まれてくるのでしょうか。
sh: 一番参考になるのはタルコフスキーの映画で、手持ちの撮影ではありませんがあの動きは物凄く微妙な動きをしており、じわーっとレールの上を動いているわけです。手持ちで何とかそういう動きができないかと思い立ったのです。あとはやはり肉体です。映像も肉体表現なんだと私は常々言いたくて、マヤ・デレンの『カメラのための振付けの研究』という映画を観てから、肉体の延長線上にカメラを持ってきたらこれは絶対に凄いはずで、踊るように撮れれば誰も観たことのない映画になるはずだと思ったのです。
Q: 映し出されるものの質感がとても生々しく伝わってきます。通常私達が見ることの出来ないものの姿が立ち現れているように思うのですが。
sh: それはまず、そのように見られる時間、環境があったということです。あとはいかに一番美しく見える瞬間に遭遇するか、その時間を選ぶということもあります。今回は雨の日を待って行ったということが幸いしました。それと場の作用です。とにかく肉体とか総てをひっくるめて宇宙の中の地球のある一点にいるということを意識することは、何かを表現する時にすごく必要なことで、廃墟がそういうものを新鮮に呼び覚ます場所だと思います。また、8mmって本当に曖昧で一コマは小指の爪もないのに、そこからこれだけの生々しさが出るのは、フィルムという化学変化、絶対に時間と絡んでこなければできない現像システムがあるからなのでしょう。それとレンズから映写されてスクリーンに映るという空間性がなければ、きっと出てこない何かしらのものもあるはずです。映画の技術の歴史の中で、映画の醸し出す生々しさを敢えて出すための何かしら秘訣が、この映写システムの中に歴然とあるはずです。
『MAYA』の上映は10/8(月)20:00からミューズ2で行われます。
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