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YIDFF 2019 アジア千波万波
ノー・データ・プラン
ミコ・レベレザ 監督インタビュー

映画をつくることで、葛藤と向き合う


Q: 映画は終始、緊張感があり、人目を気にしている様子が感じられました。カタログに、監督ご自身はアメリカに在住し、不法移民の状態とありましたが、映画を発表して危険はないのですか?

MR: 今アメリカでは、移民に対して警察の取り締まりが厳しく、最近はクリエイティブな仕事をしている人をも、抑圧しようとしています。作品を発表することは安全ではないかもしれませんが、可視化することで、他の人が私たちのような立場にいる人間の物語に、関心をもってくれる可能性があると思いました。

 カタログには不法移民と記載されてますが、不法移民という言葉は、政府の言い分を正当化する言い方なので、登録されないまま住んでいた“非公式の移民”という表現があっていると思います。両親は私が5歳の時にアメリカへ渡り、そういう立場で26年間アメリカに住んでいます。いま私は両親と離れ、フィリピンのマニラに住んでいます。アメリカを出てしまったので、もう戻ることができません。マニラに移ってからまだ2カ月足らずですが、アメリカにいた時は、ロッテルダム映画祭や前回の山形映画祭などに選ばれても、参加することができず、自分の作品を観客と一緒に見るという喜びを味わえませんでした。

Q: 映像を撮るようになったのは、自分のルーツを撮りたいと考えたからですか?

MR: 私はどこにいてもルーツを感じられない人生でした。高校の時、非公式な移民である私は、奨学金を利用できないので、大学へいく選択肢がありませんでした。同級生たちは大学へいくためのコースをとりましたが、私は好きだった写真のコースをたくさんとりました。カルフォルニア州のバークレーに、実験映画のアーカイブがあり、その頃にそこで見た映画がカッコよくて、映像を撮りたいと思ったんです。

Q: トンネルのシーンなどは、お母さんの恋愛事件の経過を表現していたのですか?

MR: 撮影時は、特に考えていませんでした。何となくそこにカメラを向けて撮ったものが、後で見返すと意味があったりするのは、映像の面白いところだと思います。

Q: 制作で、特に苦心されたところはありますか?

MR: 撮影では、イヤホンとマイクが一緒になったバイノーラルマイクを使っていました。かなり遠くや周りの音をひろい、すれ違う列車の音もひろうんです。しかし遠くの音はよくひろうのですが、近くの音はつくる必要があり、エアコンの音を録音したり、錆びた金属を動かして列車の動く音をつくったり、細部の音までつくりました。

Q: この映画を観た、ご家族の感想はどうでしたか?

MR: 家族は、まだ観ていません。でも家族にこの映画を隠しているわけではありません。私は映画を、自分と他の人との関係を考えるうえで使うことが多いんです。特に、そこに痛みがあったり、あるいは何かがよく理解できなかったりする時に、映画を通してそのことを考えます。なので、この映画が私の家族のなかにある緊張を、和らげてくれるように願っています。そして今はフィリピンに住んでいるので、次の作品は私の家族が見ることのできない場所などを、私が彼らの目になって撮りたいと思っています。

(構成:楠瀬かおり)

インタビュアー:楠瀬かおり、田寺冴子/通訳:山之内悦子
写真撮影:徳永彩乃/ビデオ撮影:安部静香/2019-10-15