慶野優太郎 監督インタビュー
海が描き出す美しい孤独
Q: 何らかの形で海に関わりをもって生きている人々の、独立した個としての存在感が非常に印象的でした。一方で、作品名の「王国」と物語が私の中では結び付かなかったのですが、なぜこのタイトルを付けられたのでしょうか?
KY: タイトルはエドガー・アラン・ポーの詩「アナベル・リー」の一節“In thy kingdom by the sea”から採りました。“thy”は古い形の“you”で、僕の視点からの「あなたたち、ほかの人たちの王国」であり、聖書にしばしば登場する言葉「やがて来る王国」の一節でもあります。ポーランドはカトリックの国で、この「王国」は天国と解釈されることもあり、そういった意味もこめられています。
Q: 人々の口から語られる言葉には、それぞれの生き方や身に起きた出来事など、物語的な要素も感じられました。これは物語を紡ぐことを意識して作られたのでしょうか?
KY: 物語を作ることは特に意識していませんでした。ただ、人々に聞くことは決めていました「人々が離れて暮らすことについて」です。それだけでは話が止まってしまうので、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズの映像作品にならって、質問票をAからZまでの単語で作り、その中から質問を選ぶということもやりました。撮影したものを編集依頼している一方で、編集で上がってきたものを見て撮影したりと、取材と編集が同時進行していくなかで、仕上がりについての大ざっぱなイメージはできていました。
Q: いろいろな方が登場していましたが、初対面の方ですか? それとも昔からの関係があった方なのでしょうか?
KY: 人によって違います。英語で話していた船乗りは、船員が立ち寄るカトリック教会の施設で出会った方で、フィリピンやロシアの船乗り、船長ともそこで知り合いました。撮影では、バルト海に面した港町グディニャと、その近くのヘル半島中央部にあるクズニツァという小さな町の2カ所を、行ったり来たりしていました。それも何かものすごい理由があったからではなく、初めてグディニャに行ったときに、対岸のクズニツァに渡ることを知り合いにすすめられたからです。
Q: 詩的な映像が美しく、防波堤に灯る明かりや、海をゆくたくさんの船など印象的な風景が多くありました。美しい映像を撮るために意識されたことはありますか?
KY: 美学的なことはあまり気にせず撮影していました。カメラを廻していたのは、3割が自分で6割は友人の中国人カメラマンでした。彼とはこの後劇映画の短編を一緒に撮っており、傾向は似ていると思います。あえてポーランド人ではなく彼と組むことで、違う場所から来たという雰囲気を撮ろうとしていました。
Q: 監督はポーランドを留学先に選ばれていますが、ポーランドなら撮れる、監督ご自身のテーマとはなんでしょうか?
KY: 直前に撮影した映画のテーマが「死んだ人をとむらう」で、そのテーマを僕はまだ持っています。大学で映画の勉強をしているときにも興味を持っていた「死んだ人がもう1回映画に映って生きているように見える不思議さ」とか、そういうテーマの映画が、ポーランドでもっと撮れるんじゃないかと思っています。今書いている脚本もちょっとそれに近いですね。
(構成:石塚志乃)
インタビュアー:石塚志乃、永山桃
写真撮影:徳永彩乃/ビデオ撮影:徳永彩乃/2019-10-11