English

審査員
馮艶


-●審査員のことば

 1993年、友人から「山形へ一緒に映画を見に行かないか」と誘われたとき、私は自分の人生がこれから大きく変わることを全く予想しなかった。

 そのときの私は、ドキュメンタリーというのが何なのかも知らず、「記録映画」と言えば、国で見ていたイデオロギー宣伝のためのプロパガンダ映画しか知らなかった。

 山形での1週間は、ずっと山の洞窟で暮らしていた人が、射し込んだ一縷の光に導かれて斬新奇抜な世界に出会ったように驚嘆の連続で、胸が踊って仕方なかった。

 山形で小川紳介監督の映画と本『映画を穫る』に出会った。あの「カメラを据え、相手の人と交わりながら撮らせてもらう」という魅力あふれる世界は、彼の沸き立つ「声」と一緒に、私を引き込もうとした。

 初めて8ミリビデオカメラを買ったのはその翌年である。『映画を穫る』を中国語に翻訳する作業をしながら、私はドキュメンタリー制作の道を歩き始めた。

 あれから22年の歳月が経った。この間、1997年と2007年に、私はドキュメンタリーの作り手として、作品を持って山形に戻った。そして今は、長編3作目を仕上げる作業に取り掛かっている。

 山形に行くたびに、私は自分の出発点に立つ思いをする。10月の山形で新しい刺激を受け、素晴らしい映画との出会いを期待したい。


馮艶(フォン・イェン)

中国天津市生まれ。大学で日本文学を学んだ後、1988年から13年間日本に滞在する。1994年からドキュメンタリー制作を開始。初の長編作品『長江の夢』(1997)がYIDFF '97アジア千波万波で上映される。『長江にいきる』(2007)は、YIDFF 2007アジア千波万波で小川紳介賞を受賞。小川紳介の映画についての発言をまとめた『映画を穫る』を中国語に翻訳し、中国語圏における小川プロダクションの作品紹介に深く寄与している。ドキュメンタリーを作る傍ら、栗憲庭映画学校でドキュメンタリー制作を教えている。



天津の一日

A Day in Tianjin
津城一日

- 中国/2015/中国語/カラー/Blu-ray/50分

監督:馮艶(フォン・イェン)
撮影:崔立剛(ツイ・リーガン)、刁丁成(デャオ・ティンチョン)、周峰(ジョウ・フォン)
編集:馮艶、刁丁成、于曉川(ユー・シャオチュアン)
録音:金翼(ジン・イー)
音楽:甲斐完治
製作:万若若(ワン・ルオルオ)

中国最大の港町でもある天津を舞台に、5人の生活の一面から、ある一日の物語を紡ぐ。鉄道職員を32年間続けている黄長清(ホアン・チャンチン)の慎ましい生活。アメリカでバイオリン制作の修行をし、現在は海外からも顧客を取る王正華(ワン・ジョンファ)。それぞれ航空会社のキャビン・アテンダントで婚約中の李丹(リ・ダン)と海超(ハイ・チャオ)。テレビ局職員の傍ら、夜は漫才師として舞台に立つ趙旭(ジャオ・シュー)。雄大な河のように、流れに時を委ねた彼らの日常が紐解かれ、また次の日が巡ってくる。