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審査員
アミール・ムハマド


-●審査員のことば

 10年ぶりのヤマガタということで、私も再訪を心待ちにしている。映画に喩えるなら、さしずめ公開10周年の記念に3D版で再公開されるような気分だ。

 映画祭の審査員となる最大のメリットは、そうでなければ見ないような作品を見る機会があることだろう。逆に、審査員をしていて嫌になるのは、最も評価するにふさわしい作品(これはもちろん主観的な評価だが)よりも、「誰も嫌いにならなかった」というだけの作品が賞を獲得することが間々あることだ。私は今でも覚えているが、かつてある審査の場で、他の誰もが推したにもかかわらず、裕福な女性主人公が異なるふたつの場面で同じシャツを着ているのに納得がいかない――画面設計が杜撰だということらしい――ひとりの審査員(私ではない!)のせいで、その作品が主要な賞を獲得しないということがあったのだ。

 完璧な映画があるとすれば、それは完璧な人間が作ったものでしかあり得ない。そして、完璧な審査というものがあるとするなら、それは審査会が完璧な人間だけで構成されなければあり得ないだろう。

 ところで、賞に関しては、モーツァルトが一度としてそんなものをもらっていないことを知っていれば十分だと言ったのは、誰だっただろうか?


アミール・ムハマド

1972年生まれ。『ビッグ・ドリアン』(2003、YIDFF 2003でアジア千波万波部門特別賞)に続く監督作品の『The Last Communist』(2006)と『Village People Radio Show』(2007)は、ベルリン国際映画祭に招待上映されながらマレーシア本国では上映禁止となっている。2007年以降、活動の中心を出版に移し、クリエイティブ・ノンフィクションを発行するMatahari Booksとパルプ・フィクションを専門とするFixi社を経営する。自身の著作も3冊ある。現在、YouTubeやクラウド・ソーシングを利用したハイブリッド映画 『I'm Still Jewish』を製作中。



マレーシアの神々

Malaysian Gods

- マレーシア/2009/タミル語、英語/カラー/Blu-ray(SD)/70分

監督、脚本、製作:アミール・ムハマド
撮影:シャン
編集:MSプレム・ナート
音楽:カップル
製作会社、提供:ダフアン・ピクチャーズ

人気高いマレーシアの副首相、アンワル・イブラヒムが、同性愛と不倫を理由に逮捕され、マハティール首相に解任された、センセーショナルな1998年の騒動。続く10年間は、大衆による前代未聞の国家への異議申し立て=「改革運動(レフォルマシ)」を引き起こした。本作では、当時デモや警察による弾圧があった場所に赴き、庶民の声を聞くという形式を取る。しかし辛口で皮肉なコラムニストとして知られる監督は、話を聞く相手を人口の8パーセントを占めるタミル系インド人に限定、植民地時代にさかのぼる人種問題を絡めながら、現代マレーシアの格差と混迷を、笑いを取りながらあぶり出す。