インターナショナル・ コンペティション |
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審査員 |
殊勲十字章
Distinguished Flying Cross-
アメリカ/2011/英語/カラー/Blu-ray(SD)/62分
監督、編集:トラヴィス・ウィルカーソン
撮影:ケリー・パーカー
録音:デイヴ・アイリッシュ
音楽:ビュート・ピープルズ・オーケストラ、 カンボジアの無名ミュージシャンたち、 アントン・ヴェーベルン・アンサンブル
製作、提供:トラヴィス・ウィルカーソン
ベトナム戦争にヘリコプター部隊で従軍した初老の男が意気揚々と思い出話をしている。その語りを、左右に配置された2人の成人した息子が聞いている。向こうみずな悪ふざけとしておもしろく語られる戦争体験が、宗教画のような画面の構図と小説のような章立ての構成に括られて見る者を不安にさせていく。当時の兵士が戦場で撮ったカラーフィルムと、現地で流れていたかもしれない賑やかな歌謡曲が織り成す語りとのさらなる不協和音が響く映画の冒険。監督と父親と弟が出演。
【監督のことば】人は戦争についての映画を作ろうとする時、それも反戦の映画を撮ろうとする時、どうするのだろうか。戦争についての映画は、どんなに強く反戦を訴えたとしても、観客の勇ましさを試すことで戦争プロパガンダとして機能するという、根本的な制約から逃れられない。最も良い例として『シン・レッド・ライン』を挙げよう。(いわゆる)“戦争の恐ろしさ”を描きながらも、あなたはそれができるくらい勇敢か?という悩ましい問いを投げかけ続ける。そして、答えを見つける方法は1つだけだ。
戦争に向き合おうとする映画は、常に新たなシンタックスを見つけ続けなければならない。既にある言説、とりわけ男らしく勇敢、といったものについて異なる言説を作らなければならないのだ。本当に、弱虫という言葉に煽られて、一体どれだけの残虐な行為が行われただろう。
だから、私はブレヒトの古典的方法、観客を“遠ざける”戦法をとった。見慣れたものを見る際にあたかも初めてであるかのように認識させる。突発的な獰猛さによって、テクスト、音楽、ありふれたもの、そして特にユーモアが中断されていく構図が効果をあげる。
皮肉なことに、本作は海外では賞賛を受けたが、アメリカではまだ一度も上映されていない。世界史上、最たる軍国主義国家で(私は誇張しているのではなく客観的に言っている)複数の前線で常に戦争をしているアメリカは、未だに世界において略奪者であり寄生虫であるという自国の本当の立場や、文化の番人としての役割について議論するには至っていない。帝国そのものの崩壊の方が、どんな映画よりも異化効果をもたらすだろう。この惑星にとって幸運なことに、それは既に着実に進んでいる。
トラヴィス・ウィルカーソン 伝説のキューバ人映画監督サンティアゴ・アルバレスとハバナで運命的な出会いを果たし、人生が一変する。現在は南米で生まれた映画運動サード・シネマの流れを汲み、政治的メッセージを形式に色濃く反映した映画を監督。作品は、サンダンス、トロント、ロッテルダム、ウィーン、YIDFF、FIDマルセイユ国際ドキュメンタリー映画祭、ルーブル美術館など、世界各国の上映会や映画祭で上映されている。2010年、米映画批評誌『Film Comment』の批評家が選ぶ過去10年の前衛映画作家トップ50に選出される。代表作は、労働運動家フランク・リトルのリンチ事件を描いたアジテーション・プロパガンダ映画『An Injury to One』(2002)。その他には、サンティアゴ・アルバレス監督を描いた『加速する変動』(1999、YIDFF 1999)、『National Archive, V.1』(2001)、『Who Killed Cock Robin?』(2005)などの作品がある。 |