トラヴィス・ウィルカーソン 監督インタビュー
父は戦争の犠牲者ではなかった
Q: 監督ご自身の父親が、ベトナム戦争の体験をふたりの息子たちに語る姿を非常にユーモラスに感じました。撮影するにあたり、事前に何か準備はされていたのでしょうか?
TW: リハーサルなどはまったくしていません。父の話す言葉をそのまま作品にしました。このような話をしてほしいというように父を誘導した訳ではなく、ただ彼が伝えたいもの、その感情をそのまま表したかったのです。あえて言うならば、この30年間いつか誰かに伝えるべく温めてきた話を、彼が頭の中でリハーサルしていたということかもしれません。この作品は15時間かけて撮影しましたが、彼はずっと話し続けていました。自身の戦争体験をいつか話したいと思っていたのではないでしょうか。
ほとんどの場面が父を中心に3人を固定ショットで映したものなのですが、2回だけ弟を映すショットに変わるシーンがあります。そうすることで、初めて父の話を聞いた弟の新鮮な反応、またその反応に父がどんな表情を見せるかを捉えたいと考えていました。私は長男という立場のせいか、これまでにも少しずつ父の戦争体験を聞いていましたが、弟とはそのような話をしていなかったようです。父は母にも話しておらず、どうして今まで彼らに話さなかったのか、いまだに不思議に思っています。
Q: 作品中には当時の兵士が撮ったカラーフィルムが挿入されていますね。
TW: アメリカ国立公文書館で作品に合うものを探している際に、16ミリのロールを見つけました。そのフィルムはベトナム戦争の名も無き戦士たちが撮影したもので、過去に誰かが使用した記録はありませんでした。もちろん彼らは撮影のプロではないし、その勉強すらしていない。にもかかわらず、この映像が芸術としての価値も持ち合わせていることに驚きました。戦争という極限状態の中で生まれた、作りものではない映像が私に何かを訴えかけてきたのです。また、今まで誰にも知られることのなかったこのフィルムと、そこに映る戦士たちが、父の語った経験をそのまま写しとったもののようにも感じられたのです。
Q: 戦争体験について語る父親を、監督はどのように見つめていたのでしょうか?
TW: 父は戦争の英雄でもなければ、犠牲者でもありません。彼は確かにあの悲惨な戦争の只中にいました。ベトナム戦争後に退役した軍人には、精神的な問題を抱え込んでしまった人やトラウマを引きずっている人が非常に多い。しかし、父はベトナムでの経験を後悔してはいませんし、私の方でも、軍隊は父の居場所のひとつであったのだというように捉えています。
ベトナム戦争の緊迫した映像に、それとは対照的な陽気な音楽を組み合わせているのも、私の意図としては、父が戦争の犠牲者ではないという点を強調するためでした。緊張感を強いられるはずの戦争にもどこか陽気なところがあるように、ベトナム帰還兵にも実際にはさまざまな人がいます。父は徴兵されて軍人になったのではなく、パイロットになるために自ら志願して軍に入りました。自らの仕事への誇り、政府に対するある意味で誠実な心があったのだと思います。
Q: この作品をどのような人に見て欲しいですか?
TW: 過去のものを〈父から子へ〉未来に受け継いでいくことが大切だと考えています。現時点では米国で上映する機会が無い状況ですが、いつか国内で多くの観客に届けられる日が来てほしいと思います。
(採録・構成:石井達也)
インタビュアー:石井達也、須藤花恵/通訳:清水喜久美
写真撮影:田中美穂/ビデオ撮影:大沼文香/2011-10-07