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YIDFF 2013 インターナショナル・コンペティション
リヴィジョン/検証
フィリップ・シェフナー 監督インタビュー

検証することで空間を共有する


Q: この作品のテーマになっている事件のことを、どのような形で知ったのでしょうか?

PS: 私がこの事件を知ったのは1996年なので、実際に事件が起こってから4年後のことです。別の映画のリサーチをしているときに、その関係者から教えていただきました。印象的だったことがふたつありました。ひとつは彼らの名前。なぜ名前が印象的だったかというと、ルーマニア人である彼らの名前がとても珍しく、ドイツ人にはあまりなじみのない名前だったからです。それから遺体が発見されたときの様子。暑い夏、陽が照っている中とうもろこし畑にふたつの遺体が横たわっている。その場面というのが、とても印象的で映画的なシーンだと思いました。

Q: 事件について話してもらい、それを再生して証言者と共にまた聞き直すという仕掛けは、当初から考えていたのでしょうか?

PS: 当初から、この仕掛けはコンセプトにありました。今回は、5分を超えない長さの小さな章に分けてインタビューをとり、録音した音声を再生したものを、証言していた人物たちがその場で聞いている場面を撮影しました。そこには私やクルーもいて、同じ空間と時間を共有しています。そしてこの映画の上映時には観客が観て、その音声を聞くわけです。聞く構造というのが繰り返されて、観客と出演者たちとが同じ空間を作りあげる。いわば、映画館のホールが、社会的であり政治的な共有空間となる。そういうコンセプトを持っていました。ドイツでは、このような事件の場合、こうした「語るための空間」はこれまでマスメディアにも裁判中にも作られてきませんでした。別の見方のための空間、別の物語が語られる空間はなかったのです。ですので本作では、映画という手段を使ってそれを作ろうとしました。

Q: この作品を見た遺族の方たちの反応はいかがでしたか?

PS: ベルリンの映画祭のときに、家族を招待して観ていただきました。やはり、彼らにとっては見るのが非常につらく苦しい映画でもあったと思います。ただ、彼らはあるがままに受け入れてくれました。上映のときも登壇し、観客とディスカッションもしました。とても感動的なディスカッションでした。そこである遺族の息子さんがこうおっしゃいました。「今まで、家族のなかでもあまり事件のことや父親について話したことはありませんでした。しかしこの映画をきっかけに、お互いが事件についてどんな思いを持っていたのか、お互いの気持ちを聞くことができました」と。また、彼は、この映画が上映されることが大切だとも話していました。上映ごとに、父親を殺した犯人の顔面に小さなパンチを入れているように感じられるからです。そして同時に、彼の父親の名前が話されたり、スクリーンに現れたりするとき、父親が、国境で殺された匿名の誰かではなく、歴史の中の人物として感じられるからだと。

(採録・構成:木室志穂)

インタビュアー:木室志穂、野村征宏/通訳:齋藤新子
写真撮影:野上貴/ビデオ撮影:井上早彩/2013-10-12