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YIDFF 2013 インターナショナル・コンペティション
蜘蛛の地
キム・ドンリョン 監督、パク・ギョンテ 監督インタビュー

記憶の多面性


Q: 劇中の固定カメラで撮影されている場面から、登場人物――3人の元売春婦――の生きている空間や、抱えている過去を感じたのですが、彼女たちをこのように撮ろうと思ったきっかけを教えてください。

キム・ドンリョン(KD): 前作『アメリカ通り』は人物を追いかけるような作品だったため、ひとつの空間に長く滞在して、主人公との関係を築きました。そんななかで、“空間”というものが気になり、次回は空間と人との関係についての映画を制作しようと思いました。はじめは、空間をつぶさに覗き込むために固定カメラを置いたのですが、撮影が進むなか、主人公が自身の記憶を語ったときに、そのカメラには、記憶と空間がひとつになる瞬間が写しとられていたのです。

Q: 劇中に登場する“幽霊”とは俗にいうお化けや霊魂などではなく、彼女たちのトラウマが作り出しているものだと思うのですが、これはどのような意図で描いたのですか?

パク・ギョンテ(PK): 前作『There is』で会ったパク・ミョンスさんから、基地村について話を聞いた時に、この場所には幽霊がいると思いました。そして、その幽霊を撮らなければと思いました。この映画では、彼女たちの記憶と空間がひとつになった場面の後で登場するトラックが、まさに幽霊としての位置づけになっています。つまり、はじめから幽霊が登場するのではありません。空間を観察し主人公の記憶のなかに入り込むという過程が、私たちには、幽霊に導かれて旅をしたように感じられたのです。

Q: 男女それぞれの声でのナレーションは、彼女たちの過去をなぞるようであり、一方ではそれを見つめる第三者を思わせる印象的なものでした。

PK: 彼女たちは基地村を歩き、ふたたびその空間に身を置くことで、もう一度過去を振り返り、よみがえる記憶を語っています。その姿に触れた私たちも、傍らで記録するだけではなくて、もう一歩進んでこの作品に入り込みたいと思い、自分たちの声でナレーションを入れました。

KD: この映画は被写体の記憶によって成り立っている物語です。記憶は記憶である以上、一貫したものではありません。そこで、一貫しない記憶の多面性を表現したいと思い、私の声でアン・ソンジャさんの自我の部分を語り、もうひとりの主人公の声とも受け取れるナレーションを加えました。こうすることで、作品をさまざまな角度から観てもらうひとつのきっかけにしたいと思ったのです。

Q: 記憶の多面性を描きたかったとのことですが、被写体の記憶だけでなく、映画全体も、ナレーションや幽霊の存在によって、基地村の事実を多面的に描いていると感じました。

PK: 今回私たちは、時代を見せるために個人のトラウマのなかに入り込む、という手法をとりました。たとえそれが少数派の特別なトラウマだったとしても、心の傷というものの存在は、私たち皆が広く共有できるものだと思います。この作品に登場する3人の女性の記憶に入り込むことで、より大きな問題と普遍的なトラウマが見えてきました。これを言葉で説明するのではなく映像で感じてもらうことで、かつて巨大な基地村の世界があったということ、その事実に潜むものに、思いを馳せてもらえればと考えました。

(採録・構成:山崎栞)

インタビュアー:山崎栞、小川通子/通訳:根本理恵
写真撮影:三瓶容子/ビデオ撮影:楠瀬かおり/2013-10-12