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YIDFF 2013 アジア千波万波
アジア千波万波審査員
崟利子 監督インタビュー

自分たちだから選ぶ


Q: 今年の作品の傾向、また審査をしていての印象をお聞かせください。

TT: これを伝えたいということが、どれもすごく表われていると思いました。ですがその思いが強いあまりに、映画として整理しきれていないものが多かった、というのが正直な感想です。今は、誰もがひとりで撮影や編集をすることができ、ひとりで作れてしまう。客観的な目が足りないのでしょうか。監督にとってはすべてのカットがそうなのでしょうが、重要な思い入れのあるカットでも、それが作品にとって必要かどうかというのはまた別の問題で、無駄に長いものが多かったように思います。昔はアジア千波万波には短編中編が多くて、そういう意味で多様な、面白い作品がたくさんあったと感じるのですが、今回に限らず最近の傾向として、長い、手持ちカメラなど、スタイルがみんな似ているというのが全体の印象ですね。

Q: どのような点に注目して、審査をされましたか?

TT: 賞というものは、その賞の名前はいつも同じですが、審査の傾向は、審査員によって変わると思います。審査員の好みというか、そういう意味ですごく面白いと思います。平等とか公平というのとは反対に、自分たちだから選ぶというものにしたかったのです。その点で今回、もうひとりの審査員のフィリップ・チアとはすごく感性が似ていて、スムーズに審査を進めることができました。違う人が選べば違う作品が賞をとっただろうし、運というものがあると思いますね。

 私もフィリップ・チアも、眼差しとか、そういったものに注目しました。特にフィリップ・チアは、小川紳介の心を受け継いだものを大切にしたいと言っていて、それには私も賛成でした。

Q: 崟さんご自身と山形映画祭の関わり、またこの映画祭への思いをお聞かせください。

TT: 映画祭は2回目くらいから、観客として参加していました。当時、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭に関わっていたので、その関係でアジア部門に出品している人に会いに来たりしましたね。私が映画を作り始める前に、助監督をさせていただき、とても尊敬している、元小川プロの福田克彦監督が、ちょうど97年に審査員をされていました。そしてその翌年、私も映画をつくりたいと思って相談しようとしていたころに、急に亡くなられたんです。生きているうちにやりたいことをやって、会いたい人に会っておかなければならない、「もう映画をつくろう」と思いました。その時は、映画祭に出そうなどという意識はまったくなくて、この2本(『オードI』『西天下茶屋・おおいし荘』)は映画を作るために作ったというか、本当に小さいところで、見せたい人だけに見せようと思って作ったものでした。それが、福田さんの奥さんである波多野ゆき枝さんに「面白いから山形に出しなさいよ」と言われ、期日を過ぎていたのですがとにかく送りました。この年に福田さんの『映画作りとむらへの道』が上映されるので、それを観に行きたいなと思っていたこともあり応募したのです。

 どちらかが通れば良いと思っていて、まさか2本とも通るとは思いませんでした。ふたつ上映していただけるというのが、とても嬉しかった。全然違う2本で、そのどちらも自分のもっているものだったからです。

 前々回には、映写の人手が足りないと聞き、映写チームとして参加しました。前日入りして一番最後まで参加したのですが、裏方をやると裏方の人の状況がよくわかりますね。朝が早くて、時にはご飯を食べる暇もなく、映画を観たくてやっているのに、全然映画が観られないという……。

Q: お客さんとして、スタッフとして、作家として、そして今回は審査員として、本当に様々な方面から関わっていらっしゃるのですね。

TT: そうですね。審査員は本当に大変だったけれども、他の人たち、スタッフも大変だし、ある意味で観客もそうなんじゃないかと思います。私の友だちは、私よりも観てるんじゃないかというくらいで、もう観る映画を選ぶのが大変と、各会場を行ったり来たりしていました。みんなが大変な映画祭ですね。でも、観に来る人たちの熱意もすごくて、監督さんたちも気持ちが良いのではないでしょうか。

Q: 他の映画祭とは違った雰囲気ですよね。本当に、観客もスタッフも作家さんも同じ場所にいるというか。

TT: それを言おうと思ったんです。作る側も観る側も上映する側も、本当に等しい場だなと思いますね。観ることも、上映することも、作ることなんです。そう考えたら、映写で映画を観られなくても仕方がないかと……。本当にね、作家なんかでも偉そうにしている人がいないし、ボランティアの人も本当によくやっているなと改めて思います。

Q: 今後映画祭にこうなってほしいというようなお考えはありますか?

TT: 今のままがいいのではないかと思うのです。やり続けること、これで十分だと思います。今の質を落とさずにね。どんどん若い人も増えてるし、運営も学んで上手くなってきている。あとはもう無駄なことをなくして、観る人、やる人が気持ちよく、誰もしんどいと思わないように心がければ。もう既に、よかった、いい体験だったという人が多いし、そういうことは勝手に広がっていくものです。本当にこのままでいいですよ。

(採録・構成:宮田真理子)

インタビュアー:宮田真理子
写真撮影:山崎栞/ビデオ撮影:山崎栞/2013-10-16

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