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YIDFF 2009 アジア千波万波
ふと想う…
アヌパマ・スリーニヴァサン 監督インタビュー

子どもたちの魂をみつめて


Q: とても素直な作品だと思いました。作品中の監督の語り口が柔らかくて、感じた問題や主張がじわじわと伝わってきました。そして観終わった後、私の心には子どもたちの表情や言葉が鮮明に残っていました。

 カタログには「視線の下でだんだんと作られてゆく」とありましたが、完成した作品は、当初イメージしたものとは違っているのですか?

AS: “教育”をテーマにすることは、はじめから変わっていません。しかし、当初考えていたものよりも、否定的な内容に仕上がってしまったかもしれません。それでも、政府や教育システムを批判するのは避けたかった。だから、そういった混乱の中でも、何かポジティブなものを探そうと思って撮影をしようとしました。それは結局、学校の中ではなく、外で見せた子どもたちの魂の中にあったのです。

Q: それについて、監督に強い印象を残したのが、舞台となった3つの地域だったのですか?

AS: これらは私の行ったことがある地域で、好きな場所だったから選びました。海の近くや山の中、砂漠のあるところであり、地形的にも文化的にも異なる場所だったのですが、作品を観ていて、途中からどの場所なのか区別がつかないような感じを抱きませんでしたか? 多様な場所でも同じような雰囲気であることを撮ることで、インドの教育に対する普遍的な感じは表現できたと思います。

Q: 子どもたちは学校では固い表情や言動をしていましたが、学校の外では監督の言うような自由な部分がポジティブに描かれていたと思います。

AS: 「海辺などで子どもたちが見せる自由な何かを、学校に持ち込むことができるのではないだろうか」と私は思います。でも、それを問い掛ける相手は、子どもたちではありません。私が作品を通して問いかけたかったことは、大人たちが疑問を持って、よりよい学校を作れるように取り組んでいくことが大切ではないかということなのです。

Q: 監督は映画を制作するワークショップを行うそうですが、やはり、そういった“自由”を育んでいくことを心がけているのだと思います。そのワークショップを通じて、監督が感じたことや気づいたことがあれば教えてください。

AS: 最近、興味深いことがありました。小さい子どもたちの中には、自由な発想のある作品を作る子がいます。けれど、18歳を過ぎた子どもたちの作品からは、自由な発想があまり感じられなくなってしまっていました。

 私は先生としての権利を、子どもたちに押しつけないようにすることを心がけています。それによって、彼らの視野や世界を拡げること、彼らの視点からのものの見方を育てていくことができます。具体的には、率直に意見を言うこと。褒めるときは褒めて、批判するときは批判する。こういった作業を少しずつ積み重ねることで、制限がある中でも、自由を見いだせるということを理解できるように教えています。また、完全な自由を持ったときには、それに伴う責任も持たなければならない、ということもよく教えています。

Q: 観客の反応はどうでしたか? そして、それらの反応をどう感じましたか?

AS: 結果をいえば、“教育”に疑問を持ったり考えたりする人がでできました。私がこの作品を通じてやりたかったことは、問題を解決することではなく、問題を理解してもらうことだったので、そういった意味でも、この作品を作ってよかったと感じています。

(採録・構成:野村征宏)

インタビュアー:野村征宏、桝谷頌子/通訳:後藤太郎
写真撮影:石川宗孝/ビデオ撮影:伊藤歩/2009-10-09