ソーラヴ・サーランギ 監督インタビュー
映画は旅路であり、学びのプロセス
Q: 家族のつながりを感じさせる作品でしたが、どのような点に注目して撮影を行いましたか?
SS: もともとインドないしアジアは、地域社会のコミュニティーや家族同士の絆が大変強かったのですが、近代化が進むにつれ、それが薄れてきました。これは私自身の経験から言えます。私はもともと郊外で、親戚も含めた合同家族で住んでいましたが、その後、寄宿学校に入ったため、毎日家族と会うことはなくなってしまいました。高層ビルなどに比べ、地面に近い所に住んでいる人たちは、草のようにお互い絡み合いながら共に生きています。私が映画を撮る時は、自分が未だ知らない、確信が持てないことを対象にします。映画は旅路であり、新しいことを学んでいくプロセスです。ビラルがあのような暮らしぶりにもかかわらず、たくさん笑い、幸せでいられることが信じがたかったので、より深く知りたいと思ったのです。そして観客を、その旅に導いています。
Q: 監督と出演者との関係について教えてください。
SS: 入院しているビラルと微笑みを交わした魔法のような瞬間から、彼と特別な関係ができ、この映画が実現しました。私たちは撮影中、ほとんど目と目でコミュニケーションをとっていました。たとえばビラルと私は、彼の両親が知らないところでいたずらのようなこともしました。ビラルが私に、彼の両親が知らない世界、彼が日常的に見ている世界を見せてくれたのです。両親とも個人的なつながりができました。ドキュメンタリー映画を撮る際に、人物と感情的な結びつきを持つことが大切だと思います。
Q: 撮影前と撮影後に、ご自身の変化はありましたか?
SS: アムステルダムでプレミア上映された後、IDFA基金を知りました。これは映画の制作者側ではなく、本当に支援が必要な出演者に向けたもので、私は何度も迷いましたが、ビラルの将来のために申し込むことを決意しました。この基金を獲得したからといって、家族に対する私の態度が変わったとは思いません。当初は盲目者とのコミュニケーションに戸惑いましたが、時間が経つにつれ、触れることで気持ちが直に伝わるようになりました。また撮影後、本当の意味で貧困を克服するには、豊かな人が何らかの方法で貧困を体験することが必要だと気づきました。私はカメラを通して実行しましたが、人それぞれ別の手段があるでしょう。人々は、貧しい人と同じ目線を持ち、貧しい人に対して敬意を持つことを学ぶべきです。貧困というのは、創造力の宝庫であり、一致団結して行動する大きなエネルギーを持っているということを感じました。
Q: それらの気づいたことを観客に伝えたいと思いますか?
SS: 撮影中に経験、記録したものはすべて包み隠さず映しています。私は何か哲学的なことや、強いメッセージを作品中伝えようとはしていません。仮に観客が何らかのメッセージを受け取ったとしたら、それはその人自身の見方です。一方で私は新たな撮影スタイルを獲得したいと思っていました。シネマヴェリテをドキュメンタリー映画の中に取り戻そうと考え、台本もコンセプトも持たず、毎回その場で自分の心に従って撮影しました。音や照明、時間、空間などすべて組み合わせ、最終的に直感に基づき自分の体験した真実を表現しました。所々でみられるジャンプカットはひとつのシーケンスになっています。実験的な制作の仕方でしたが、まだまだ学ぶことは多いと感じています。
(採録・構成:林祥子)
インタビュアー:林祥子、保住真紀/通訳:新居由香
写真撮影:一柳沙由理/ビデオ撮影:一柳沙由理/2009-10-10