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故郷から離れて――台湾における災害映像記録と「土地」をめぐる闘い


 台湾でのドキュメンタリー制作・上映運動は、1980年代における社会運動の勃興と、90年代以降の全景映像工作室を中心とした広範なドキュメンタリー運動の広がりが大きな契機となって発展した。インディペンデントで活動する制作者たちは、人権問題や台湾原住民運動、環境保護運動といったさまざまな社会運動と密接な関係を持つ社会運動家でもあり、現在の台湾を記録すること、カメラによって社会正義を主張することの重要性と効果を、彼らの作品を通して体現してきた。その中で起きた1999年の921大地震や、2009年のモーラコット(モラク)台風がもたらした土石流災害による甚大な被害は、こうした気骨あふれる台湾の作家たちを、被災者の目線に立った映像記録へと突き動かした。

 過去の台湾の大災害に関する優れた記録映画はこれまで数多く制作され、当映画祭でもそのいくつかを折りに触れ上映してきた。今回は、その中でも長期にわたり復興プロセスの記録を続け、置き去りにされた被災者の故郷や山への想い、先祖伝来の地の回復をめぐる闘いをじっくりと記録した7作品を紹介する。これらの作品は、今回小特集として上映する黄淑梅(ホアン・シューメイ)監督作品をはじめとして、災害後の人々の苦しみを通して、環境保護や原住民族の権利回復といった現在も続く台湾社会の課題を浮かび上がらせ、同時に急激に変化する自然環境のもと、私たちが今後どう生きるべきかを問いかけてくる。

 本プログラムは、共催の台湾文化部および台北駐日経済文化代表処台湾文化センターより多大なご支援をいただき実現した。また作品の選定にあたり、国家台湾映画センターおよび台湾国際ドキュメンタリー映画祭ディレクターの林木材(ウッド・リン)氏にご協力いただいた。ここに記して感謝したい。

畑あゆみ(台湾プログラム・コーディネーター)



心の呼び声

Somewhere over the Namasia
無聲的呼喚

台湾/2012/ブヌン語、中国語/カラー/デジタル・ファイル/58分

監督、編集:蔡一峰(ツァイ・イーフォン)
撮影:蔡一峰、張育瑋 (チャン・ユーウェイ)、呉学禹(ウー・シュエユー)、張天明(チャン・ティエンミン)、張嵩岳(アレックス・チャン)
音楽:希本・伊斯南冠(シプン・イスナクァン)
提供:蔡一峰

高雄県の那瑪夏ナマシア地区。台風モーラコットによる土石流災害を生き延びたブヌン族の人々は、どこで生活を再建するか決断を迫られる。別の土地に移住するか、再び故郷に戻るか、あるいは転売が許されない無償の被災者支援住宅に一生暮らすのか。しかしいずれを選択しても、「故郷の山に帰る」という彼らの願いは変わらない。





カナカナブは待っている

Kanakanavu Await
Kanakanavu的守候

台湾/2010/カナカナブ語、中国語/カラー/デジタル・ファイル/95分

監督:馬躍・比吼(マーヤウ・ビーホウ)
脚本、編集、エグゼクティブ・プロデューサー:莎瓏・伊斯哈罕布徳(サローン・イシャハブトゥ)
撮影:張煥宇(チャン・ホワンユー)、 李漢文(リー・ハンウェン)、陳金泰(チェン・チンタイ)
音楽:温子捷(ウェン・ズージエ)
製作、提供:龍男・以撒克・凡亜思(ロンナン・イサク・ファンヤス)

高雄市を流れる楠梓仙ナンズーシェン 溪(川)のほとりに暮らしていた、400人ほどの少数原住民族カナカナブ。台風がもたらした土石流の被害により避難を余儀なくされた彼らは、再び故郷に戻り、自分たちの手で困難な家の再建に取り掛かる。父祖伝来の地で、部族の本来の暮らしと誇りを取り戻すべく奮闘する彼らの姿を記録。





洪水の後で ― 家についての12の物語

Twelve Stories About the Flood
大水之後 ― 關於家的12個短篇

台湾/2011/中国語、原住民族語/カラー/ デジタル・ファイル/60分

監督、編集:許慧如(シュウ・ホイルー)
撮影:姫俊銘(ジー・ジュンミン)
音楽:巴奈・庫穂(パナイ・クスェイ)
エグゼクティブ・プロデューサー:陳怡如(チェン・イールー)
製作:古国威(グー・グオウェイ)
提供:許慧如(シュウ・ホイルー)

台風モーラコットにより大きな被害を被った高雄県那瑪夏ナマシア地区の南沙魯ナギサル部落。被災し、家を失った原住民の人々の、その過酷な現実、悲しみ、絶望を12の物語として記録した。



故郷はどこに

Out of Place
鄉關何處

台湾/2012/中国語、台湾語/カラー/デジタル・ファイル/78分

監督、脚本:許慧如(シュウ・ホイルー)
撮影、製作:姫俊銘(ジー・ジュンミン)
編集:陳恵萍(チェン・ホイピン)
提供:許慧如

一家のルーツが台湾原住民の平埔ピンプー 族であるかもしれない監督の夫とその家族。その可能性を探り、自らの民族的アイデンティティについて思いをめぐらす。一方、台風によって大きな被害を受けた被災地・小林シャオリン 村では、その平埔族の文化の継承が危機に瀕している。「故郷」の探 究と喪失をめぐる思索の旅路。