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YIDFF 2019 ともにある Cinema with Us 2019
カナカナブは待っている
馬躍比吼(マーヤウ・ビーホウ) 監督インタビュー

災害の記憶と生きる


Q: 原住民族のカナカナブ族にまつわる映画を作るきっかけは、何だったんですか? そして、撮影にどういう覚悟を持って挑んだのでしょうか?

MB: やはり、八八水害がきっかけです。山間部が非常に大きな被害を受け、ドキュメンタリー作家として、どのような状況なのかを見に行きました。彼らは、その山間部の一帯に住んでいる多くの原住民族のなかのひとつの民族です。そうした被災の状況を撮るにあたって、今をきちんと撮る、過去をきちんと見ておくという覚悟で臨みました。それは、未来にとって非常に重要なことだと考えています。

Q: 日本でも、自然災害は身近な問題です。災害の記憶と、どのように向き合っていけばいいのでしょうか?

MB: 山形国際ドキュメンタリー映画祭が、「Cinema with Us」というプログラムを作って、日本と台湾の作品を上映することはとても素晴らしいことです。過去に起きたことをしっかりと記憶し、記録するということが重要です。次の災害に備え、被害状況を少なくするために、できることはしっかりとやっておかなければなりません。

Q: そのなかで、カナカナブ族の人々の土地に対する帰属心、若い層と年配の方々の間にある意識のギャップが印象的に描かれていましたね?

MB: 台風は自然災害ですが、その後の対処となると人為的なものになるわけです。政府は、麓の街に降りて生活するように言ってくるわけですが、この映画の老人たちは、伝統を守っていくべきだと考えています。逆に、移り住むべきだという人もいるわけです。そうした人々を結びつけたのが、最後に出てくる伝統の儀式でした。儀式によって人々が結びついて、カナカナブの団結を示したのです。ただ、映画の後、政府が別の政策を提案したことで、また別れてしまったという部分を撮ることができなかったのは、非常に惜しいことでした。

Q: 終盤、カナカナブ族の川に対する想いを語る場面は、自分たちの民族や生活に対する誇りが表れている素敵なシーンでした。

MB: 昔からの伝統で、人が亡くなると川で綺麗に清めて葬るというものがあります。そうすると、また別の形で蘇って生きられる。辛い思いをした時も、川へ行って清めると、前向きに新しい気持ちで生きられるということです。空に浮いている雲も、山に発生する霧も、池の水も最終的にはすべて海に流れていくわけですよね、そこに物語がある。すべて還流しているのです。

Q: 記憶を大事にされている監督ですが、監督自身は他に何を残したいと考えていますか?

MB: 若い頃は、文化や原住民族のドキュメンタリーを撮るにしても、文化的なことに興味がありました。祭りとか生活習慣といったことです。年齢を重ねるにつれて、歴史とか政治的なものを記録するドキュメンタリーを撮ることに興味が出てきたので、これは面倒なことになったと思いました。政治的なものを撮れば、誰かしらと立場が違ったりして賞が取れないなんてこともありますよね。今は教育について興味があります。アミ族の幼稚園とかです。それから、20年ほど前から撮りたいと思っているのがアミ族の女性たちの雨乞いですが、時間がなくて撮れていないんです。今回、蔵王を訪れたのですが、とても素敵な場所だと思いました。また早く作品を仕上げて、山形に帰ってきたいと思っています。

(構成:前澤龍)

インタビュアー:前澤龍、田寺冴子/通訳:樋口裕子
写真撮影:森崎花/ビデオ撮影:安部静香/2019-10-13