私映画から見えるもの |
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PROGRAM A 痕跡を求む
「もっと大きく、もっと速く」を求める現代社会から取り残された個人農家、マイノリティー言語と文化、一家で歌をうたう団欒の家族生活。『ピゼット』の作者はパーソナルな郷愁と、かの世界にかつて自ら背を向けた負い目を抱え、映画撮影を通して和解をする。『阿賀の記憶』の撮影隊は、雑草だらけの田んぼの跡にスクリーンを張って10年前に撮影された前作を上映し、かつてのNGフィルムを光にすかして再撮し、亡くなった多くの人や今はもうない「かつて」の痕跡を必死に今と切り結ぼうとする。
変わりゆく世界、消えてしまう一瞬をフィルムに残したい。それがニュース性や商業性という意味で何の変哲もないありふれた暮らしや風景であったとしても。――そう願う作り手「私」の想いの先で作られた映像には、他の誰にも作れない個別的な関係が映っている。
ピゼット(最後の年かもしれない)
Pizzet (Maybe the Last Year)Pizzet (Forsa l'ultim on)
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スイス/2003/ロマンシュ語/カラー/35mm/52分
監督:イヴォ・ゼン
撮影:ミリヴォッチ・イフコヴィッチ
編集:アニタ・ホルデネール、イヴォ・ゼン
録音:初井方規、セドリック・フルッキガー
音楽:コーラス・ヴァル・ミュステール
製作:アルヴァ・フィルム、イヴォ・ゼン
提供:アルヴァ・フィルム
アルプスの谷間の農場で、作者の老いた伯父夫妻が牛を飼い、牧草を手で刈り、幼少期の思い出と、廃れ行く小規模農業やロマンシュ文化への哀愁を誠実で静かな視線で捉える。
イヴォ・ゼン 1970年、グリゾン生まれ。母語はロマンシュ語。チューリッヒで建築を学んだ後、ジュネ−ヴ州立美術高等専門学校で映画を勉強。フィクション『Frédéric』など短編を製作。 |
阿賀の記憶
Memories of Agano-
日本/2004/日本語/カラー/16mm/55分
監督:佐藤真
撮影:小林茂 編集:秦岳志
録音、音構成:菊池信之
音楽:経麻朗
製作:矢田部吉彦
製作会社、配給:カサマフィルム
共同配給:BLUEBUCK Films、P.O.P.ネットワークス
名作『阿賀に生きる』から10年、撮影隊は新潟の阿賀野川のほとりに暮らす人々を再訪する。今は荒れてしまった田や主を失った囲炉裏を見つめ、人々の痕跡に記憶を重ねていく。
佐藤真 1957年、青森生まれ。スタッフ7人で現場に3年間移り住み作った『阿賀に生きる』(1992)以降、監督作多数。最新作『OUT OF PLACE』は特別招待作品で上映。 |