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事務局より

2013-02-08 | 「研究室リレー上映シリーズ」が生み出す知の波紋
〜山形大学小白川図書館上映会〜

 まるでだまし絵のように、見方を変えた瞬間に違う絵が浮かび上がる驚きと発見。そんな面白さを上映会の中で生み出せないかという発想から、研究室リレー上映シリーズは生まれました。これは山形大学の先生方からそれぞれの専門分野に関連した映画祭上映作品を選んでいただき、作品解説に重きを置いた上映を行うという企画です。

 ドキュメンタリー映画は、時として映画表現の多様性を私たちに垣間見せてくれます。作品と観客との間には、幾通りもの解釈や捉え方が横たわっている、つまり作品を観た観客の側に、その受け止め方は委ねられているとも考えられます。映画祭という空間では、Q&Aという方法によって、作家が発信したものと観客が受け取ったものを、お互いに交換し合う場が設けられています。研究室リレー上映シリーズでは、このドキュメンタリー映画が持つ解釈の幅、あるいはイメージの包容力のようなものを信頼して、映画研究とは異なる専門知識と視点から作品を鑑賞することによって、観客の皆さんに思いもよらなかった視界が開ける瞬間を体感してもらうことを狙いにしています。

 2010年から始まったこの上映会は、これまで、文化人類学、ロシア文学、シュルレアリスム研究、フランス文学、歴史学、政治学、社会学、そして映画研究という観点から、8つのシリーズ、全19回の上映と解説を行いました。「歴史・記憶・伝統〜ロシアの事例から〜」と題して上映した『メランコリア 3つの部屋』(YIDFF 2005)では、ロシア文化に造詣の深い中村唯史教授の分析により、登場する子どもたちの顔の作りから遺伝的な対応関係と民族的な出自が見出せるとし、作家の意図としてそれらが強く作品構造に反映されていることが指摘されました。また、「ドキュメンタリー映画でチェコの歴史とまちなか散歩」と題した『記憶と夢』(YIDFF '95)の上映では、東欧政治学がご専門の高橋和教授による解説で、作中にさりげなく挿入されている童謡がチェコの人々の精神性を如実に表しており、作品テーマとも強く結びついているということで、その物悲しいメロディを歌っていただく場面などもありました。

 映画を観ているだけでは知り得ない、専門的な観点からの情報が、描かれている物事や人々、その国の状況への関心の幅を広げることにつながるかもしれません。もっと知りたいという知識欲を喚起する上映会、それも映画の楽しみ方の一つとして、山形大学図書館上映会では今後も「知」の波紋を生み出していければと思っています。

日下部克喜(山形事務局)

 

※2月のプログラム詳細については、こちらをご覧ください。 link 山形大学小白川図書館上映会〈1月−2月〉