トーステイン・グルーデ 監督インタビュー
盲目のソマリア
Q: 本作のソマリアでの貴重な映像に非常に感慨を受けました。監督が危険をおかしてソマリアに行き、その現状を撮影しようという意欲、それは正義感や義務感でもあると思いますが、それはどこから湧き起こるのでしょうか?
TG: もともと、できれば世のためになる仕事をしたいと考えていました。人生をどうするか考えていたころ、映画を通して過酷な状況にいる人たちや、その困難を伝えたいと思い、ドキュメンタリー映画こそ、私のやりたいことの実現になると気づいたのです。
この作品の前に、タンザニアとブルンジでふたつの企画がありましたが、その時は欲しい素材が撮れませんでした。作品に関わった現地の人たちが傷ついたり、投獄されたり拷問されたりしました。その体験から、今回の撮影では違ったアプローチをしようと考え、ソマリアの兵士にカメラの撮影を依頼して、ソマリアの内戦の現状を伝えようと思いました。私は、戦争の現状をより正直に伝えたいと考えましたが、自分が撮影することで現実がゆがんでしまうかもしれない。だったら、現地の兵士に撮影をしてもらうことで、しっかりと現状が撮れるのではないかと考えました。
Q: それは、彼らに危険が及ぶことに繋がると思いますが、そのような危険な依頼を受けてくれる撮影者と監督の信頼関係はどのように作られたのですか?
TG: 彼らは私の命の恩人です。過去のタンザニアの企画の途中で、傭兵に捕まってしまって危なかったときに、ブルンジ軍に助けてもらったことがありました。そのときにブルンジ軍の中にいたふたりに、私が持っていたカメラを見せると、興味を示したので、その場で簡単なフィルムスクールを開き、使いかたを教えてあげました。そこから私たちの関係が始まったのです。
Q: 作品のなかでは、敵味方を問わずに、子どもたちが軍事訓練を受けさせられていました。大人が子どもを洗脳しているアフリカの現状は、どのようなものですか?
TG: 私は、今回撮影されたフィルムを500本以上観ました。1本ずつ観ていくと、最初は敵の姿が見えないのですが、日に日に、だんだん敵に近づいていって、敵も捕虜も大人ではなく、子どものほうが多いことがわかりました。ソマリアでは、子どもの兵士への志願が認められています。もちろん、子どもは大人のイデオロギーをまったく理解していません。ソマリアでは子ども対子どもで戦っているという、悲しい現状がありました。さらに、ソマリア政府は、大人子ども関係なく、敵を殺したり、拷問したりもしていました。
Q: この映画を撮ることで、世界の人々にソマリアで起こっていることを知ってほしい、現状が改善されてほしいと考えていらっしゃるのでしょうか?
TG: ソマリアは、ヨーロッパであまり報道されない国です。1日50人が殺されても、小さいニュースになるかどうかもわかりません。なので、この映画によって、報道されないことを伝えて、観客にソマリアについて興味を持ってもらい、学びたいという意欲を起こしてほしいと考えています。さらに、アフリカの戦場では、地元の人を戦争に利用することはよくあり、売春の強制などが多く行われているのも現状です。この映画を観た観客の方々に、そのようなアフリカの状況を理解してほしいと考えています。
(構成:棈木達也)
インタビュアー:棈木達也、沼沢善一郎/通訳:冨田香里
写真撮影:狩野はる菜/ビデオ撮影:野村征宏/2017-10-07